国内自動車メーカー各社の業績が、昨年来の円安を受けて一段と上方修正となる模様だ。2015年3月期の連結営業利益はトヨタが前期比2割弱増え、2兆7000億円前後(米国会計基準)となる公算だ。富士重工業は初めて4000億円台に達する見通し。いずれも過去最高だ。円安効果が収益を大きく押し上げるほか、北米販売が伸び、国内や新興国の苦戦を補う。
金融危機後、構造改革に取り組んだ日本勢の稼ぐ力は海外勢と比べても際立つ。マツダも4~12月期は営業最高益となった。業績好調を受け、賃上げや取引先に対する利益還元の動きが広がれば消費を刺激する好循環につながる。
これまでの予想ではトヨタが前期比9%増の2兆5000億円、富士重は17%増の3820億円で最高益見通しだった。2月4日の決算発表時にさらに上方修正する公算が強い。北米の伸びを支えに富士重の営業利益は4200億円前後(前期比130%弱)に拡大する見通しだ。
牽引役は北米市場の好景気だ。景気回復を背景に市場が拡大している。とくに、燃費は悪いものの原油安・燃料油安の影響も手伝って、利幅の大きなフルサイズ・ピックアップトラックや大型SUV(多目的スポーツ車)の需要が、燃費の悪さなどを気にしない顧客を中心に伸びており好調だという。このジャンルで強い米メーカーも潤っている。
日本メーカーにとって円安効果は大きい。2014年10月~2015年3月の想定為替レートは1ドル=105円だったが、円安進行を受け110円台に見直す。トヨタは1円の円安が年400億円、富士重は100億円弱の営業増益要因となる。トヨタは円安効果により営業利益が1000億円以上増えることとなる。
日本の自動車メーカー各社は、金融危機後の需要急減や円高を機に構造改革に取り組んできた。トヨタは工場新設を凍結して生産改革を進めた。富士重は低採算の軽自動車生産から撤退、水平対向エンジンと4WDシステムという得意分野に集中した。為替変動の影響を受けにくい体制構築をめざしてはいるが、今回の円安は利益に直結した。
2014年4~12月期でみても円安の恩恵を受けたメーカーの収益は好調だ。マツダの営業利益は20%増の1500億円で過去最高益。「アクセラ」や「デミオ」の好調な販売が貢献したとみられる。
日産は円安を受け、国内生産を10万台以上積み増す。北米向け輸出車の生産を九州で再開し、海外の少量生産車種も一部を国内で手がける。為替変動に応じ、販売好調で供給が追いつかない米国の増産分を日本に移すなど、世界の拠点間で補完する。
ルノー日産アライアンスは、車型ごとに設計や部品の共通化「コモンモジュール」化を進めている。ローグ(エクストレイル)は、その新たな設計手法を採用した最初の車種で、日米中など両社のどの工場でも製造できる。2016年度をめどに日本国内の生産を100万台に引き上げて、雇用や開発力維持するという。つまり、円安傾向で日本国内工場のコスト競争力が高まり、北米に新工場建設などで投資するよりも、設備に余裕にある日本工場を活用した方がコスト面で優位なため輸出に切り替えるというわけだ。
日産は現地生産により為替リスクを抑えコストを削減するため、九州工場から13年秋にローグの生産を米テネシー州のスマーナ工場に、14年秋には新型「ムラーノ」を米ミシシッピ州のキャントン工場に合計で年間20万台程度移していた。
為替の影響を極力受けないような施策に注力してきた日本自動車メーカーだが、昨年後半から進んだ対ドル対ユーロ・円安傾向は日本の自動車メーカーには大きな利益をもたらした。(編集担当:吉田恒)