トヨタがまたも大英断。部品メーカーに対し2期連続“値下げ要請”せず

2015年02月03日 08:30

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グローバルで勝てる原価水準をトヨタが保てるか? サプライチェーン全体でコストを分担する方策としてトヨタの判断は……?

 トヨタ自動車が、またしても大英断を下したようだ。先般、燃料電池車に関する特許技術を世界に向けて“無償で提供する”と宣言したトヨタが、取引先から購入する部品について、従来なら年2回実施していた値下げ要請を2015年度上期である2015年4~9月期も見送るという。トヨタは、これまで約450社の1次取引先に対し、半年ごとに量産中の部品について購入価格の改定を求めてきた。改定額は取り引き先によって異なるが、原価逓減を進めるために、ここ数年間平均で1~1.5%程度の値下げを要請してきた経緯がある。

 この今回の値下げ要請見送り決定は前期(2014年9~3月期)から2期連続となる。このため取引先の部品メーカーにとって純利益の増加につながる。今春の労使交渉では大企業と中小企業の収益および従業員の賃金格差是正が大きな課題となっている。が、トヨタとしては、今回の部品価格値下げ要請見送り決定で、取引先に対して円安などによる収益増を還元する姿勢を鮮明に打ち出し、数万社に及ぶ取引先の従業員の賃上げを後押しする。

 14年度下期(14年10月~15年3月)の取引分については円安による輸出採算改善で業績が上向いてきたこともあり、14年10月末に初めて改定見送りを決めた。15年度上期分は3月上旬にも取引先に伝える。

 2期連続で価格を据え置く背景には円安で材料価格が高騰し、中小企業の利益が圧迫されていることがある。トヨタには為替による材料価格の変動を自社で負担する仕組みがあるものの、取引先との業績格差は縮まっていない。取引先の経営を中長期で支えるためには現時点での値下げ要請は非合理的だと判断した。

 トヨタとしては、納品価格価格を据え置く一方で部品メーカーと一体となった原価低減の努力は続ける。作業の無駄の洗い出しやより安い材料の開発に向けて、トヨタの担当者がアドバイザーとして取引先の現場に入り、工場の「カイゼン」を進め競争力を維持・高めていく。

 政府がデフレからの脱却を進めるなか、現状では大企業の儲けが下請け中小企業にまで流れていないとの批判もある。トヨタの15年3月期の連結営業利益は2兆7000億円に達し、過去最高を更新する。利益を取引先に還元するというわけだ。

 トヨタは1月30日に、部品価格の改定見送りについての考えを官邸に伝えたという。同日の経済財政諮問会議後に記者会見した甘利明経済財政・再生相は「好循環を大企業から中小企業に展開しつつある。大企業は範を示していただいたのだと思う」と述べ評価する姿勢を見せた。

 トヨタと同様に1次以降の取引先が2次、3次と価格を据え置いていけば、全国数万社の規模で利益が上積みされることになる。トヨタの1次取引先でもあるデンソーは2014年度下期、トヨタに倣ってその下に位置する約400社に対して値下げ要請を見送った。こうした流れが広がれば、トヨタ関連企業で賃上げ余裕が生まれることになる。トヨタの取り組みがほかの自動車メーカーや部品メーカーなどにも広がれば、中小企業の賃上げ意欲を後押しする可能性がある。

 トヨタは自社を含めた雇用や部品を生産する関連企業を支えていく基準を「国内で年間300万台生産」としている。この数字は何としても維持したい考えだ。少子化で国内市場が低迷するなか、現在は半分の約150万台を輸出に頼っている。グローバルで勝てる原価水準をトヨタが保ち続けられるか?。そこで重要なのはサプライチェーン全体でコストを分担するということになろう。(編集担当:吉田恒)