トヨタ自動車はSiCパワー半導体(SiC:Silicon Carbide。シリコンと炭素の化合物)の実用化に向けた取り組みの一環として、ハイブリッド車(HV)などのモーター駆動力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)に従来のシリコン(Si)に替わる新素材SiCパワー半導体を搭載したカムリHVの試作車を開発。2015年2月初旬から約1年間、豊田市を中心に公道での走行試験を行なう。
SiCパワー半導体は、カムリのPCUのほか、先日発表した燃料電池(FC)路線バスの昇圧コンバーターにも搭載している。この乗用車と路線バスで燃費向上効果を検証するというもの。
PCUは、走行時はバッテリーの電力をモーターに供給、減速時は回生した電力をバッテリーに充電するなど、HVなどの電力利用において重要な役割を担っている。そのPCUに使われているパワー半導体は、車両全体の電力損失の約20%を占めており、パワー半導体の高効率化が求められている。つまり、電流を流す時の抵抗を低減することが燃費向上に不可欠なのだ。
今回開発したカムリ試作車は、PCU内の昇圧コンバーターおよびモーター制御用インバーターに、SiCパワー半導体(トランジスタ、ダイオード)を搭載している。
公道走行試験では、走行速度や走行パターン(高速走行、市街地走行、渋滞等)、外気温などさまざまな走行条件のもとで、PCU内の電流、電圧などのデータを取得し、従来型のSi半導体と比べ、SiCパワー半導体搭載によって燃費向上がどれほど進むのか、その効果を検証する。
また、2015年1月9日から、豊田市内の路線バス(とよたおいでんバス「豊田東環状線」)として営業運行している燃料電池バス(FCバス)にも、FCスタックの電圧を制御するFC昇圧コンバーターにSiCダイオードを搭載。走行データを取得し、燃費向上効果を検証する。
なお、今回、カムリ試作車とFCバスに搭載したSiCパワー半導体は、国家プロジェクトでもある低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクトとして、独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の委託を受けて、技術研究組合「次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構」(FUPET)が達成した成果である高品質なSiCウェーハ技術を採用している。
トヨタは、HVなど電動車両の燃費向上において、エンジンや空力性能などの改善はもとより、パワー半導体の高効率化も重要技術として位置づけており、新素材SiCパワー半導体の早期実用化に向けて、公道走行データを開発に反映させるという。
トヨタ自動車がカムリHVとFCバスで実験に使うSiCパワー半導体は、トヨタ、デンソー、豊田中央研究所と共同で開発した製品である。(編集担当:吉田恒)