若い世代の負担を減らすために、贈与税が一定額内ならば非課税となる一括贈与制度の導入、延長が進められている。2015年4月から「結婚・出産・子育て資金の一括贈与」が創設され、今年末までを予定されていた「教育資金の一括贈与」も19年3月末まで延長される。
働き盛り・子育て中の若い世代の負担を減らすために、贈与税が一定額内ならば非課税となる一括贈与制度の導入、延長が進められている。2015年4月から「結婚・出産・子育て資金の一括贈与」が創設され、今年末までを予定されていた「教育資金の一括贈与」も19年3月末まで延長される。
これらは、資産を持つ高齢者世代が、子や孫にまとまったお金を非課税で生前贈与できる仕組みだ。現在、日本の個人金融資産の内60%を、60才以上の年代が所有しているとされ、その額は980兆円にのぼるとも言われている。眠ったままの高齢者の資産を、子や孫の世代に行き渡らせることで、若い世代の負担減少、ひいては消費拡大につながると期待されている。
内容を詳しくみてみよう。「結婚・出産・子育て資金の一括贈与」は、受け取る側は20才以上50才未満、贈与する側は父母もしくは祖父母といった直系尊属であることが条件だ。期間は15年4月から19年3月末までが予定されている。非課税の限度額は1000万円までで、その内結婚資金は300万円までと定められている。
「教育資金の一括贈与」は、受け取る側は30才未満、贈与する側は父母もしくは祖父母といった直系尊属であることが条件。こちらは以前から導入されており、15年12月に終了する予定だったが、19年3月末までに延長された。非課税の限度額は1500万円で、その内、学校以外での教育資金は500万円と定められている。どちらの贈与制度も、信託銀行など金融機関を利用する必要がある。
こうした一括贈与制度は、若い世代の助けになるだけでなく、贈与する側の総資産も減るため、結果的に相続税の節約につながるというメリットもある。しかし一方で、さらなる格差を生むのではないかという懸念もある。
元々、多額の贈与ができるだけの金融資産を持つ家庭は限られている。いくら個人金融資産の内60%を60才以上の年代が占めるといっても、その世代の全てが十分な資産を持っているわけではない。中流以上の富裕層の家庭は、一括贈与制度により、子や孫の世代まで安定して資産が行き渡るが、十分な資産を持たない家庭では、この制度の恩恵にあずかることは難しいままだ。極端に言えば、「親が金持ちなら子も金持ち、親が貧乏なら子も貧乏」という格差状況をさらに鮮明にする危険性がある。
そして、今年1月から相続税の非課税枠が4割縮小され、これまで相続税のかからなかった家庭でも相続税がかかることになった。一括贈与制度を利用できるだけの資産が元々ある場合は相続税の節約も可能だが、そうでない家庭には相続税の負担が増えただけの形にもなりかねない。
富める者はより富み、貧しい者はより貧しく。アベノミクスによる経済改革はそうした色合いが強いが、税制改革にもその面がうかがえる。今世界中で話題となっている、仏経済学者トマ・ピケティ氏が指摘する「資本による格差拡大」そのままの税制改革とも言えるだろう。景気の拡大が、そのまま格差の拡大にならないことを願う。(編集担当:久保田雄城)