政府は高齢者に偏る金融資産の子や孫への移転を促そうと様々な政策を打ち出している。そのひとつが、祖父母が孫に教育資金を贈った場合、1500万円まで贈与税がかからない教育資金贈与の非課税制度だ。あわせて、NISAの子ども版の創設も検討されている。
政府は高齢者に偏る金融資産の子や孫への移転を促そうと様々な政策を打ち出している。そのひとつが、祖父母が孫に教育資金を贈った場合、1500万円まで贈与税がかからない教育資金贈与の非課税制度だ。あわせて、NISAの子ども版の創設も検討されている。NISAでは年100万円を上限に株式などの投資で得た利益が5年間、非課税になる。祖父母や両親が0~18歳の孫や子ども名義で投資する場合にも配当や将来の売却益が非課税になる。
日本には1600兆円にのぼる個人金融資産があるとされている。しかし、その50%超が預貯金として眠ったままだ。高齢者の金融資産は1000兆円程度。この半分の500兆円以上が預貯金のまま口座に眠っているのだ。この金融資産の世代間移転が進めば、個人消費が活発になり、金融市場への資金流入も増えるというのが、政府の目論見だ。
信託協会によると、2013年4月に始まった教育資金贈与の非課税制度の専用口座数は1年で6万7000件となった。2年間で見込んでいた5万4000件をすでに上回っている。契約額は月200億~500億円ずつ増えており、1年間で約4500億円になった。財務省などは、資産の世代間移転を進めるために15年末としていた制度の期限を2~3年延長すべきだと判断した。非課税となるお金の使い道を広げる案も浮上している。現在の対象は、授業料や習い事の月謝など。出産費用やベビー用品購入などの費用も対象に加える案がある。
NISAについては子ども版NISAの創設と併せ、現行の大人版の利用対象年齢も「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げ、年間の非課税投資枠を100万円から200万~300万円に引き上げる案が浮上している。投資総額も現行の上限の500万円を1000万円以上に引き上げる。5年間の非課税期間も恒久化を求める金融界の意見を踏まえ、段階的な延長を検討する。金融庁の3月末時点の調べではNISAの投資総額のうち20~30代による投資は全体の8%にとどまるため、需要を掘り起こしたい考えだ。
高齢者に偏る金融資産の世代間移転を進めたいという意図は理解できる。しかし、移転が進まない背景には将来の社会保障に対する不安がある。そして、教育資金の贈与やこども版NISAについても、高額の資金を一括で贈与できる富裕層に対する実質減税に過ぎないという批判にも真摯に耳を傾けるべきだ。何より短期間で頻繁に行われる制度変更は利用者の混乱を招きかねない。(編集担当:久保田雄城)