貯蓄性の保険を利用した節税が注目を集めている。しかし、相続財産の大半が不動産のケースではこの方法は使えない。被相続人が高齢の場合も贈与できる金額は限られる。今後、地価が上昇すれば相続税の悩みはさらに増えることになる。
2015年1月、いよいよ大増税がやってくる。既に復興特別所得税が導入され、証券優遇税制も打ち切られ、消費税も増税された。さらに相続税が大幅に課税強化される。相続税の非課税枠(基礎控除)が縮小されるためだ。これまでからアパート建設など相続税の節税に利用されてきた。ところが、今回の増税ではこれまでとは違った特徴がある。保険会社や銀行が貯蓄性の保険を利用した節税をさかんにアピールしている。
三井住友信託銀行<8309>が政府の全国消費実態調査を基に試算したところ、新たに590万世帯が課税対象になった。既存の課税世帯と合わせると1220万になり、全世帯数の23%になる。政府税制調査会は、今回の増税で実際に相続税がかかる人は5割程度の増加にとどまると見ていた。しかし、実際には倍増することになる。不動産価格が高い都市部では新たに課税対象となる世帯が多い。税理士法人の試算では東京都内で親や配偶者を亡くした人のうち2人に1人は相続税の申告が必要になる見通しだ。
財産を子や孫に移すスキームには流行がある。かつては相続税の税率が贈与税のそれよりも低いことから、贈与よりも相続が優先された。しかし、今は計画的に生前贈与を行うことが流行だ。生前贈与向けの保険商品は、親から子・孫へ贈与税の基礎控除(110万円)分の現金を毎年贈与し、そのお金を使って生命保険に加入するのが基本的な仕組みだ。契約者は毎年非課税枠の中で保険料を振り込み続ける。
生前に親世代の財産をできるだけ移しておけば、将来の相続税負担を減らせる。贈与税をかけずに子や孫に資産を移せる利点もある。子や孫名義の預金口座に資金を移動させるだけで良さそうなものだが、保険を使うには理由がある。子名義の銀行口座に現金で貯金する場合、親が管理しているとみなされると相続税が課税される可能性がある。悪質な課税逃れとみなされれば、脱税となり重加算税が課されることもある。生命保険ではこうした心配がない。贈る側から見ると、保険が満期を迎えるまで贈ったお金が無駄遣いされにくい特長もある。さらに、将来の遺産分割協議で遺産の取り分をめぐる争族を未然に防ぐこともできる。
生保や銀行はこうした相続ニーズに対応した保険の販売に力を入れている。当面の相続対策の流行は保険になりそうだ。しかし、相続財産の大半が不動産のケースでは当然この方法は使えない。被相続人が高齢の場合も贈与できる金額は限られる。誰にとっても万能の相続税対策など無いのだ。流行に流されず、計画的な相続対策が必要だ。(編集担当:久保田雄城)