白布膜テントのなかに配置された色温度の違うLED照明の明かりが外側から見ると“明滅が楽しげ”だ。コントロールするのは右の写真のカラフルな丸いスイッチなど。ヒトが“スイッチを押す動作”から生まれるエネルギー(電力)だけで通信しLEDの光の表情をコントロールする
EnOcean(エンオーシャン)と呼ばれる技術の特徴は、エネルギーハーベストを活用したバッテリーレス無線通信にある。欧米では300社以上の企業がEnOcean社の技術を採用して650種類以上の製品を市場で販売している。従来型の無線通信スイッチに対してバッテリーが要らないことから、これを活用する製品が飛躍的に増大しているという。
2008年に欧米企業が協働で自社製品などにEnOcean社のエネルギーハーベスト技術を組み込む目的で、「EnOceanアライアンス」を設立した。日本企業も電気・通信を中心にこのアライアンスに参加する企業が増加している。一般消費者でも耳に馴染んだ企業も多く、ヤマハやNEC、東西NTTやNTTデータ、東芝やオムロンなど蒼々たる企業が顔を揃える。
同アライアンスのメンバーは、「プロモーター/パーティシエント/アソシエート」の三段階に分かれているが、メンバーの1社である京都の半導体メーカー「ローム」は、2012年10月に、アジアの企業として初めて、このアライアンスの最上位であるプロモーターに就き、EnOceanのバッテリーレス・ワイヤレス技術開発の中核企業としてその役割を担っている。
この3月3日から東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「第12回国際照明総合展“ライティング・フェア2015”」に出展したロームは、建築家の海法圭(かいほう・けい)氏と組んだ斬新な展示を行なった。
ヒトが“スイッチを押す動作だけ”から生まれるエネルギーだけで通信しLED照明の光の表情をコントロールし、温度差や静電気、熱などを利用して小さな電気を作って通信に使う。これは冒頭から説明してきた“EnOcean”のエネルギーバーベスト技術を使った遊びの空間演出で、「空間のイメージを変える“光の力”を無線通信スイッチでコントロールしてみんなで遊ぶ“大きな行灯(ランタン)”です」と海法氏。
今回の“行灯(ランタン)”のコンセプトについて、「ロームから今回のお話をいただいた際に、それぞれの特徴を活かして刻一刻と変わる光の様子を会場に来ている方に楽しんで頂きたいと考えました。ライティング・フェアの会場全体をひとつの街に見立て、街角にある大きな“行灯(ランタン)”をイメージしたものです。実際に来場された方には、少し閉じられた空間の中に入って頂き、ランタンの光を自分でいたずらできる様子を体験してほしかった。遠目に見ても楽しさが伝わる感じでしょ」と楽しげな口調で語ってくれた。
ヒトが押す動作から生まれるエネルギーだけで通信して照明をコントロールするEnOcean技術は、すでに奈良・當麻寺(たいまでら)のLED照明で活用されている。重要文化財などを収めた歴史的に価値のある建造物への照明設備の新たな設置は、照明器具とスイッチを結ぶ「長大な配線ケーブルや電源が不要」なEnOceanシステムが利便性と文化財の美観の維持に大きく貢献しているそうだ。
海法氏は、ライティング・フェアでの展示で「無線、センサー、照明のコラボレーションで色々なことができるという可能性が広がった。LED直管の配置によって間接照明にして空間演出するなど、ロームとのやりとりのなかから生まれたアイデアもあった」とも。氏は、1982年生まれ。海法圭建築設計事務所を主宰し、住宅やホテル設計から街づくりプロジェクトまで国内外を問わず幅広いフィールドでプロジェクトが進行中。新しい空間と価値を創造する注目の若手建築家だ。
ロームによると、応用製品としてビルオートメーションで用いられる照明スイッチ、空調制御機器のひとつといえる窓の開閉検知、動体センサー、あるいはフットスイッチ、押しボタン、プルスイッチなど多岐に渡り、病院のナースコールスイッチを“ケーブルレスに”という構想もあるという。
EnOceanモジュールは、エネルギーハーベスタ(発電素子)を用いて、振動や光および温度差からエネルギーを取得。これにより、無線機器はバッテリーレスでの稼働が可能になり、無線機器の高い信頼性を維持するためのメンテナンスも簡便だという。従来の無線スイッチに対して内蔵バッテリーが要らない技術なので、応用可能な製品が飛躍的に拡大するはずで、エネルギーハーベスティングを利用した無線通信ソリューションのグローバルな拡大は必至といえそうだ。
エネルギーハーベスティング無線の通信距離は、屋外ではおよそ300m、屋内では最大30m。今後、世界的にエネルギーハーベスティング無線ソリューションに対する需要が飛躍的に高まるのは間違いない。同無線ソリューションが世界的な普及に突き進むのは必至といえそうだ。(編集担当:吉田恒)