この秋に登場するハイブリッド車・新型プリウスは、リッター当たり40kmの好燃費ともいわれるが、最大のニュースはTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を採用した初めてのモデルということ
トヨタは最近、長期間同社の株を保有する傾向を持った個人投資家へ説明会を開いたり、長期保有の投資家向けに種類株を発表したりと、“長期”を訴えることが多い。豊田章男社長の口からも“長期”を反映したかのような「年輪経営」という言葉がもれる。長期経営を志向してその方向性をその言葉に託しているようだ。
先日発表した2015年3月決算で連結営業利益を更新したトヨタは、2016年3月期も連結営業利益が3期連続で過去最高になる見通しだという。リーマン・ショック後の赤字転落や大規模リコール問題を脱し、回復から成長へ着実に進んでいるようにおもえる。しかしながら、決算発表記者会見で豊田章男社長ら経営陣は、危機感をにじませているように映った。ただ、昨年5月の決算発表で豊田氏は「意志ある踊り場」という表現を使った。が、今年の記者会見は「意志ある投資」に変わった。
「意志ある踊り場」宣言は、新しい工場は建てず、既存の設備能力の中で生産性や品質を最大限突き詰めていくとした、短期的シェアや利益確保とは一線を画す言葉だった。リーマン・ショックで過剰な在庫を抱えた反省、その後の品質問題などを念頭に置いた意志表明だった。実際、この3年間トヨタは新工場をつくっていない。だが、今春になって、中国とメキシコに新工場を建設する計画を発表した。かつてのような規模を追求するモードになったともいえる。成長を支えていく北米と中国という巨大市場で、設備能力を年間数10万台も増強するのだ。
一方、「年輪経営」「長期」を市場に訴える。ここに「長期の利益と持続的成長を優先する」「台数は結果」といった豊田社長の慎重な考え方に基本がありそうだ。
グローバルな市場でトヨタの最大のライバルはドイツのフォルクスワーゲン(VW)だ。だが、トヨタがVWについて「ライバル云々」と直接言及することはない。VW首脳陣が「Toyota」の名前と目標台数を挙げ、“世界一を目指す”と明言しているのと対照的だ。
VWがこの10年でおよそ2倍の規模に拡大したのは、新興国市場が先進国市場を追い抜く構造転換を見据え、製品づくり改革や技術開発、M&A(合併・買収)を進めてきた結果だ。
世界の自動車生産で日本メーカー12社による生産合計は1990年代初めに35%の世界シェアをもっていた。が、ここ数年は30%を割り込む年もある。成長市場の見極めや顧客に評価される売れる技術、新時代への転換が遅くなり、時代の変化に対応できなかった結果かもしれない。
トヨタは3年間の意志ある踊り場で、その遅れを挽回しようとした。ただ、「踊り場」に立ち止まっていたわけではない。そこから新開発手法「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」が編み出され、それを導入した今秋登場の新型プリウス以降の新車開発と海外工場建設なのだ。
2012年に発表した「TNGA」は、異なる車種間でエンジンなど基幹部品の共有を進め、効率的な開発を行なう取り組みだ。豊田社長によれば「20年ごろには世界のトヨタ車半分がTNGAモデルに切り替わる」という。しかし、独VWは同様の取り組みMQB(モジュール・ツール・キット)を一昨年発売した主力車種「ゴルフ」で導入・先行したが、立ち上がりで苦戦し収益悪化を招いている。
トヨタは昨年まで、敢えて複数サプライヤーが同じような製品を手掛ける体制を残し、グループ内競争を促してきた。が、グループに分散する部品事業を集約する方針を決めた。集約で浮いた人員や資金を次世代の技術開発などに使う。大規模な再編の成果が問われるのもこれからになるのはいうまでもない。世界販売1000万台時代の持続的な成長を可能にするカギとなりそうだ。
なお、5月13日、トヨタ自動車とマツダが、「クルマが持つ魅力をさらに高めていく」ことを念頭に、両社の経営資源の活用や、商品・技術の補完など、相互にシナジー効果を発揮しうる、継続性のある協力関係の構築に向けた覚書に調印したと公式に発表した。この件の詳細は改める。(編集担当:吉田恒)