トヨタ<7203>は昨年末、水素で走る自動車「燃料電池車(FCV)」を世界で初めて一般発売した。その名も“MIRAI(ミライ)”。安倍政権も2020年の東京オリンピックに向け、水素エネルギー革命を強力に推進することを宣言している。水素社会と燃料電池車の未来は、我が国に本当にひらかれるのであろうか。
すでにお馴染みの電気自動車が外部からの充電を要するのに対し、FCVはタンクに水素を補充し、車体前面のフロントグリルから取り込んだ空気中の酸素とともに燃料電池へ送り、自動車自らが発電する仕組み。排出するのは水のみで「究極のエコカー」と称され、次世代型自動車の最新鋭である。
このFCVの普及には、大きな障壁が2つある。1つは車両自体が高額なこと。ミライが現時点で約700万円。国から1台当たり200万円の補助費が支給される。自治体も、例えば愛知県の75万円、埼玉県の100万円など、補助を出す方向に動きつつある。これでトヨタの高級車クラウンの価格を下回りそうだが、それでもまだまだ一般市民には高嶺の花だろう。同社では、22年までに車両価格を大幅に引き下げるべく、車体の燃料電池や高圧水素タンクの構造見直しなど、総合的なコストダウンに取り組む模様だ。
もう1つの難題は、水素を補給する水素ステーションの建設費。これは1基につき約5億円、通常のガソリンスタンドの5倍以上だ。これについても、整備費の最大半額を補助する制度を国が採用した。東京都と愛知県も、国とは別に補助事業を行う予定。政府は、15年度末までに全国計100ヶ所の建設を目標としているそうだが、そこにかかる補助金が不足し、関連予算の上積みが迫られる可能性も否めない。
国がここまで水素エネルギーの普及にこだわるのはなぜなのか。今年の春闘のベアを先導したトヨタが、FCVと水素ステーションの浸透に向け、経団連などを通じて政府に様々な支援を要請したことは疑いない。また、小池百合子氏が会長を務める「FCVを中心とした水素社会実現を促進する研究会」には、すでに100人を超える“水素族議員”が所属しているという。
あらゆる組織が利権に群がり大事故を引き起こした“原子力ムラ”の二の舞になってほしくはないが、遠い将来、著しく進化した太陽光や風力などの再エネ技術によって自宅で水を電気分解し、水素を貯蓄、それを用途に応じて電力や熱へと自在に変換する、いわば「エネルギーの自給自足社会」の実現を真に見据えるならば、官民一丸となってこの一大事業に取り組むのもよいかもしれない。(編集担当:久保田雄城)