5月8日、トヨタが発表した2015年3月期決算(米国会計基準)で、売上高は6.0%増の27兆2345億円、本業のもうけを示す営業利益は20.0%増の2兆7505億円と過去最高を更新した。最終的な純利益が前年比19.2%増の2兆1733億円だったという。昨年来の円安基調を追い風に2年連続で最高益を更新した。2兆円超えは国内上場企業で初めて。2012年に販売台数が頭打ちになるなか、同社は「意志ある踊り場」を標榜し、新設備投資を凍結した企業運営を行なってきたが、その企業運営における「セーフティドライブ指向」からのシフトチェンジを実施するもようだ。
昨年の消費増税後の販売不振で国内販売台数は減少したものの、対米ドルで10円ほど前年に比べて円安が進み、営業利益を2800億円ほど押し上げた。
現社長の豊田章男氏はリーマンショックの翌年、2009年9月に14年ぶりのトヨタ創業家からトップの座に就いた。が、就任当時、直前に発表した2009年3月期決算で純損益は4369億円と創業以来の赤字に転落していた。創業家に社長職を移譲するには最悪のタイミングといえた。
そんな最悪の状況で豊田章男社長が就任して、V字回復を成し遂げた最大の理由は、「超円高」から「超円安」への転換だ。2012年3月期にUSドル79円だった円相場は、2015年3月期にはドル110円にまで下落した。この円安効果は、トヨタに1兆円近い純利益を上乗せしたことになる。
ここで豊田章男氏の経営者としての経営手腕を数字で説明しよう。今期年3月期決算時の円相場は、トヨタがリーマンショック前、つまり豊田章男氏が社長に就任する以前の2008年3月期に計上した純利益1兆7178億円を稼いだ時代と比較すると、1USドルあたり4円ほどの円高だ。それにも拘わらず、今回当時を上回る利益を計上したのは、豊田章男氏の「意志ある踊り場」戦略という経営方針が功を奏した結果にほかならない。新工場建設など大型投資は控え、既存工場の最大活用を優先してきた豊田章男氏は会見で生産現場のコスト削減の努力と効果を強調した。
トヨタは「経営のセーフティドライブ」で投資を抑えてきた結果、リーマンショック前で業績が好調だった7年前と比べ純利益は27%増となった。が、しかし、売上高は4%増にとどまる。
こうしたなかで、大きく成長してきたのが独フォルクスワーゲン(VW)だ。同社は、売上高を7年前より90%近く増やし、純利益も2.6倍とした。2014年度のグループ世界販売台数でトヨタを抜いて首位に立ち、売上高でも上回った。トヨタが「自分の意志で踊り場に居た期間」に積極な投資を行なってきたことが奏功した。
トヨタは今年4月、新工場建設の3年間凍結を前倒しで解除し、メキシコと中国に工場を新設することを決めた。豊田章男氏は、成長に向けた準備をする「意志ある踊り場」から「実践段階」にシフトさせたという。加えて「とにかく挑戦をし続ける。挑戦しなくなれば必ず成長は止まる」、「リーマンショック(2008年)のような状況に直面した時に会社の実力が出る。お客様の期待に応えられるよう最後まで挑戦したい」と豊田章男社長は決算記者会見で語っていた。
ただ、「意志ある踊り場」を目指した結果、世界中のトヨタ工場の稼働率は9割を超えているとされる。そのため販売台数拡大の余地は大きくない。子会社のサプライチェーンの大規模な再編を進め、2016年3月期の売上高は前年比1.0%増の27兆5000億円、営業利益は1.8%増の2兆8000億円、純利益は3.5%増の2兆2500億円を見込む。
好調トヨタであることには間違いはない。今年秋にはフルモデルチェンジするトヨタの大黒柱、ハイブリッド車プリウスの発表が控えている。ただ、2015年の国内販売は2014年の実績を下回るとみており、HV比率はほぼ5割になる見込みだ。一方、国内でのHV生産は132万台と2014年実績比で約3割増えるという。国内生産に占めるHV製造比率はトヨタ車全体の40%を超えるとみられる。(編集担当:吉田恒)