“婚約期間がもっとも楽しい”というトヨタとマツダの提携関係?

2015年05月17日 12:17

Toyota Mazda

業務提携に基本合意したトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長

 トヨタとマツダが車両開発における環境対応や安全技術など幅広い分野で提携することになった。この春の米ニューヨーク・モーターショーでトヨタブースに展示された「サイオンiA」がマツダ・デミオをベースにしたモデルで、この提携関係が噂にのぼり、提携交渉が表面化していた。

 2015年3月期決算で、過去最高の利益を記録した両社。が、新興国市場の開拓やクルマのIT化などにより自動車という枠を越えた企業間競争は激しさを増している。そうした強い危機感を共有し、両社は資本関係を持たないまま、分野を限定しない広範な協力に踏み出したということ。

 1990年代後半からトヨタはハイブリッド車(HV)の実用化や燃料電池車(FCV)の開発を優先した。そのため、ガソリンエンジンなど基幹ユニットや自動運転技術の強化が遅れ気味だった。一方、マツダの基礎的内燃機関エンジン技術には目を見張るものがある。

 トヨタは連結売上高の4%前後を研究開発に投じ、その金額は2015年3月期に1兆円を突破した。独フォルクスワーゲン(VW)に次ぐ規模だ。しかしながら今後、すべてを自社でカバーできない、として今回の提携に踏み切った。

 グローバルな展開が必須とされる自動車メーカーとして得意のHVに加え、2018年からZEV(Zero Emission Vehicle)規制を強化する米カリフォルニアなどに対応し地域に応じてディーゼル車や電気自動車(EV)の開発も必要だ。“新たな成長分野での投資も待ったなし”の状況を豊田章男社長は強調する。

 IoT(モノのインターネット)時代を迎える2020年には世界で走る2億5千万台がインターネットにつながるとの予測もある。米アップルやグーグルなど異業種が力を入れる自動運転車などへの対応も急務だ。マツダは経営資源が限られるなか、社運をかけてエンジンの高出力・低燃費技術に集中投資し、評価の高い「スカイアクティブ技術群」を開発した。トヨタはこうした技術を取り込めば先端分野への投資を増やせる。

 米フォード傘下からの事実上の離脱や円高を乗り越えたマツダにも提携メリットは大きい。トヨタとは10年からHV技術で組んでいるが、今回、従来の枠組みを越えて挑戦することを選んだ。

 トヨタの豊田章男社長が就任してから「運転する楽しさ」という言葉を頻繁に口にしてきた。そこから、富士重と共同で開発したコンパクトなスポーツカー「トヨタ86」と「スバルBRZ」が生まれた。ある意味でトヨタとマツダの両社は“クルマづくり”の感性が似ている。マツダは1989年に発表した初代ロードスターで「人馬一体(人車一体)」という言葉を使った。この言葉を5月13日の記者会見で豊田社長は何度も口にしたのだ。

 トヨタの得意なHVやFCV技術群、マツダの内燃機関熟成技術群が、いかなる連携効果をもたらすのか? 今回の提携発表で両社の社長がいみじくも語ったように「婚約期間がもっとも楽しい」ことにならないように願いたい。(編集担当:吉田恒)