「日本たばこ産業(JT)」は2015年2月、飲料の製造販売事業から9月末を以て撤退すると発表。自動販売機事業については、継続や提携、売却などさまざまな方法を検討するとしていた。つまり、売却先を探し今夏をめどに“嫁ぐ”段取りで進めてきた。業界ではJTの自動販売機子会社、ジャパンビバレッジの争奪戦がスタートしていたのだった。
先月、4月17日に締め切られた1次入札には、サントリーホールディングス、アサヒグループホールディングスなどの大手飲料メーカー、イオンなど流通異業種やファンドまで、さまざまな企業グループなどが買収に手を挙げた。
その結果、売却先は国内飲料メーカー2位のサントリー食品インターナショナルに決まった。発表は25日だった。サントリーはジャパンビバレッジの自動販売機事業を7月に正式に買収する。缶コーヒー「ルーツ」や清涼飲料の「桃の天然水」のブランドも同時に取得するという。JTがサントリーを選択した決め手になったのが「買収金額の高さ」だ。買収金額は、ほかの企業が提示した1000億円を大きく超える1500億円程度となる。サントリー食品は、この販売網の獲得により、飲料ビジネスの拡大に弾みを付けたい考えだ。
サントリー食品は、かねてより2020年までに、国内飲料企業でトップシェアを獲得したいとしてきた。鳥井信宏社長は会見で、今回の買収は「(目標達成にとって)すごくインパクトがある」と語った。
飲料メーカーにとって自販機は有力な販売チャネルのひとつ。しかし、設置場所は限られてきており、JTの自販機事業を買収したことで、一気に販売網が広がる。
今回の買収劇で業界の勢力図は、首位コカ・コーラ、2位サントリーの2強体制が鮮明となる。コカ・コーラの自販機保有台数は83万台。サントリーは49万台。それにジャパンビバレッジの26万台を加えるとば75万台となり、コカ・コーラを猛追・肉薄する。その上、首都圏を中心に小売店向けの販売台数では、「コカ・コーラよりもサントリーが勝っている」状況で、「コカ・コーラを抜いて業界首位を奪取する」ことも夢ではない。
取得額1500億円は、手元資金や借入金などを充当する予定。鳥井社長は「借入、社債による新たな資金調達は1000億円を下回る予定」とした。
缶コーヒー「ルーツ」や「桃の天然水」は、9月末でJTによる製造を中止する。その後、ブランドを維持したまま、サントリーが付加価値を創出・付加し、価値感を高めて再発売するもようだ。サントリーは「南アルプス天然水」や缶コーヒー「BOSS」という有力ブランドを持つが、「ルーツにはルーツの固有のファンがいる。サントリーらしい戦略で新たな価値として提案し直せば、BOSSと異なるユーザーを獲得できる」として、今回の買収となった。
一方、今回のJT買収劇で業界3位以下の飲料メーカーは苦しい戦いを迫られることになりそうだ。なかでも、今回の争奪戦にも意欲的に参加していた3位アサヒ、5位キリンは、宿敵サントリーにJTを奪われることだけは避けたかったはずだ。
自販機による飲料販売は装置産業だ。好立地の装置が増えるほど収益性が高まり「スケールメリット」が享受できる。自販機販路の確保はメーカーにとって、ある意味で生命線といえる。ところが、アサヒの自販機台数は28万台、キリンに至っては21万台と、今回の買収で誕生した2強とは3倍近くの差がつく。これは大きな差だ。
また、サントリーが、自販機販路で生んだ利益を原資に、小売店への販促攻勢を仕掛けることも予想される。財務的に体力の劣る3位以下メーカーが価格競争で対抗するのは厳しい。今回の争奪戦は、飲料業界の勢力図を一変させる「天下分け目の戦い」だったのだ。また、業界アナリストの間では、今回の買収は“3位以下の飲料メーカー再編・激動のスタート”だと見る向きもある。台風の眼になりそうな飲料企業は“あのD社”だ。(編集担当:吉田恒)