5G時代の新通信プロトコル 60GHz帯通信とLTEを協調動作させる通信方式とは

2015年06月01日 07:54

 モバイルトラヒックの急増により、周波数資源が不足しており、より高周波数帯の利活用が必要とされている。特に各国で研究が進められている第5世代移動通信方式(5G)が目指す性能実現のためにミリ波帯に関する研究開発が活発化している。しかし、高周波数帯の電波は減衰が大きく、遠くまで電波が届きにくいことから、広いエリアをカバーすることが難しく、移動通信サービスでの利用が難しいとされてきた。

 この課題の解決策として、LTEのような広域通信により補完する方法が考えられるが、現在インターネットで広く用いられているTCP/IP通信においては、通信を始める前の処理時間がかかるため高周波帯通信とLTEの切り替えに多くの時間を要し、継続的な通信ができないという課題がある。

 これを受け、KDDI研究所では、60GHz帯とLTEが協調動作してデータを転送する新しい通信方式を開発した。今回の技術的ポイントは、①ユーザが今後必要とするコンテンツを”先回り”させるシステムの開発、②新しいネットワークアーキテクチャ技術として研究が進められているCCN (Content Centric Networking) 技術を使用、の2点である。

 60GHz帯のエリアに入ってから通信を確立するための制御信号のやり取りを行っていたのでは、エリアに入ってすぐにデータ転送ができないという課題もある。これに対して、LTEエリアであらかじめユーザが到達するであろう60GHz帯エリアを予測し、必要なコンテンツを先回りダウンロードさせることにより、ユーザが60GHz帯エリアに入ってすぐにダウンロードが開始できるという。

 また、CCNは、ネットワークの役割をサーバとの間の接続から、コンテンツの取得に変えようという考え方に基づいた技術。これまで複数ネットワークを利用する時に問題となっていたサーバとの接続性やネットワーク間の切替えが必要ない。これにより、60GHz帯とLTEとで最適なデータ転送をシームレスに結合することが可能だ。さらに、ネットワークが現在転送している「コンテンツ」を知ることができるようになり、それに基づいて先回りさせるコンテンツを容易に決定することができる。

 以上の技術により新しい通信プロトコルを設計し、Linux OSならびにAndroidTM OS上に実装した。また、CMOS LSIを用いた60GHz帯ミリ波無線プロトタイプを使用して、LTEと60GHz帯を協調させて動画のダウンロード再生ができることを確認した。

 これにより、60GHz帯とLTEをユーザが意識することなく利用できるため、動画など大きいサイズのコンテンツをダウンロードする際の終了時間の短縮とともに、LTEのトラヒックの60GHz帯へのオフロードを実現した。実機を用いた検証試験の結果では、ダウンロード時間をLTEのみを使った場合と比較して5分の1以下にまで削減し、LTEのトラヒックを最大約90%、60GHz帯にオフロード可能であることを確認したとしている。(編集担当:慶尾六郎)