藻類産生オイルの輸送用燃料への変換法とは 藻類オイルの利用拡大へ

2015年06月18日 08:32

 高い速度でオイルを生産する株が存在し、藻類を利用したオイル生産に注目が集まっている。近年、筑波大学の渡邊信教授らにより、水中有機物を餌としてスクアレンを高効率で生産するオーランチオキトリウム 18W-13a 株が発見され、その後の東日本大震災を契機に筑波大学・東北大学・仙台市が協力し、都市下水を浄化しつつスクアレン等を生産するプロジェクトが「東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト」の一課題として 2012 年度からスタートした。

 しかし、スクアレンはそのままでは重油相当の炭化水素で、現在は深海サメの肝油から生産されるものが化粧品などに利用されてるが、下水から生産されるスクアレンは用途が限られ、需要の大きいガソリンやジェット燃料に変換するには改質が必要だ。

 これを受け、東北大学大学院工学研究科の冨重圭一教授、中川善直准教授、筑波大学生命環境系の渡辺秀夫研究員らの研究グループは、藻類が産生する炭化水素スクアレンをガソリンやジェット燃料に変換する新手法を開発したと発表した。

 これは、既存の石油改質技術で得られる燃料と異なり、毒性のある芳香族成分を含まず、安定性が高く低凝固点の分岐飽和炭化水素のみで構成される。既存の石油改質手法に比べて生成物組成が単純であり、触媒安定性も優れているという。

 今回開発した反応系では、主たる活性金属であるルテニウムを酸化セリウムに担持した触媒を用いる。ルテニウム種の前駆体である錯体を酸化セリウムに担持後、不活性雰囲気下 300℃で穏やかに分解することで、サブナノメートルサイズのルテニウム微粒子が担持された触媒を得た。この触媒を用いてスクアラン(スクアレンの水素化物)を 240℃、60 気圧水素で水素化分解し、低級炭化水素を得た。この反応では、毒性のある芳香族は全く生成せず、スクアラン分子中の分岐と分岐の中間位置が選択的に切断され、分岐を残した飽和炭化水素のみが得られたという。

 ガソリンやジェット燃料では、分岐炭化水素は、オクタン価、低凝固点、保存安定性の観点で望ましい成分。他の貴金属系触媒は低活性であったり、分岐の位置が切断されメタンと直鎖炭化水素が生成したりと劣る結果しか得られない。また、固体酸を用いた既存の石油改質触媒では、酸触媒による異性化反応が進行し、著しく複雑な組成の生成物となる。

 今回開発ものでは、既存の石油改質で問題となりやすい触媒上への炭素質の生成がほぼなく、4 回の再使用で性能劣化が全く見られなかった。この手法は、直鎖成分が大部分を占める原油と異なり、分岐が多いという藻類由来炭化水素の特徴を活かした改質手法と言えるとしている。

 今回の研究で開発した改質手法は、スクアレンの大規模生産に向けてその利便性を拡張し、実用化に弾みをつけるものと期待されるという。今後、プロジェクトにて実際に生産された藻類オイル試料への適用や、ボトリオコッセン等他の藻類由来炭化水素への適用に取り組んでいく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)