東北大学理学研究科 古川善博助教らは、物質・材料研究機構 小林敬道主幹研究員、広島大学大学院理学研究科 関根利守教授と共同で、生命誕生前の地球の海洋に隕石が衝突する際に起こる反応を模擬した実験を行い、無機物からDNA および RNAの構成物質である核酸塩基(シトシンおよびウラシル)や、タンパク質の構成物質である種々のアミノ酸が生成することを明らかにした。
核酸塩基はDNAとRNAの両方で合計5種類しかなく、遺伝情報を伝える重要な文字として働いている。また、タンパク質を構成するアミノ酸も生命の起源に重要な物質と考えられている。これまでの研究では、無機物で構成される生命誕生前の地球では、核酸塩基の生成が難しいと考えられてきた。
今回の研究では、生命誕生前の地球の海洋に鉄を含む隕石が衝突する過程を模擬した衝突実験を行い、生成物を分析した。その結果、鉄、水、重炭酸、アンモニアなどの無機物から、衝突反応により、最大2種類の核酸塩基および最大 9 種類のアミノ酸が同時に生成することが明らかになった。このことは、生命誕生前の地球における遺伝物質の新たな供給源を示唆しているという。
生命の遺伝情報はDNAに記録されており、その情報はRNAを介してタンパク質の合成に使われ、タンパク質は生体内の様々な反応をコントロールしている。これらの物質を構成する核酸塩基やアミノ酸、リボースなどの有機物は生命起源にとって不可欠な物質だが、生命誕生期の地球でこれらの重要な物質がどのように誕生したのかは分かっていなかった。
これに対して、物質・材料研究機構名誉フェロー、元東北大学教授の中沢弘基博士は鉄を含む隕石の衝突でこのような有機物が生成するという仮説を提案した。古川助教らの研究グループは、この仮説に基づき2009年に隕石の衝突によりアモルファス炭素を炭素源として最も単純なアミノ酸であるグリシンが生成することをつきとめていた。しかし、隕石の衝突を含めた他の環境でも、当時の地球で利用可能な無機物から核酸塩基を生成する反応や地質学的イベントはこれまで報告されていなかったという。
今回の研究では、当時の地球大気の主成分である二酸化炭素が海洋に溶解して生成する重炭酸に炭素源を変更し、約1 km/sの超高速衝突実験を物質・材料研究機構において行い、東北大学で生成分子の分析を行った。その結果、これまでに比べはるかに種類、多量のアミノ酸が生成し、さらに複数の核酸塩基も生成することを発見した。
このようにして生成された核酸塩基が最初の生命の遺伝情報の蓄積や伝達に使われるようになった可能性があり、この研究成果は地球上で最初の遺伝物質がどのようにして誕生したのかという問題解決に対して、重要な手がかりを与えてくれる可能性がある。隕石の衝突は刻々と変化する多様な環境を形成するため、全容の解明や当時の地球での生成量の詳細な見積りには今後の研究の進展が必要となるとしている。(編集担当:慶尾六郎)