2015年11月30日から12月11日の12日間にわたり、フランス・パリで、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催された。今回の会議では、我が国が温室効果ガス排出量を2030年までに26%削減する(2013年比)ことを公約しており、大幅な削減が必要である。
日本の丸川環境大臣が、最も力を入れて参加国へのアピールに努めたのが「JCM=二国間クレジット制度」だ。「二国間クレジット制度」とは、日本の技術を発展途上国に費用の一部を負担して導入して、途上国の温室効果ガス削減に貢献することで、削減分の一部を日本の削減分に繰り入れる仕組みのことだ。日本国内ではすでに省エネ化が進んでおり、今後の飛躍的な削減は難しいのが現状。しかし、その技術力を途上国で活かせば、まだまだ地球全体規模での温室効果ガス削減は期待できるし、コスト面でのメリットも大きい。
そんな日本が各国に先駆けて開発を進めている大幅な温室効果ガスの削減を実現する技術の一つが「燃料電池」だ。未だ誤解されることが多いが、燃料電池は電池という名が付いてはいるものの、蓄電池や乾電池のように充電した電気を溜めておくものではなく、「水素」と「酸素」を化学反応させて、直接「電気」を発電する装置のことだ。
例えば、自動車業界でもハイブリッドカーの次を担うのは燃料電池自動車と期待されている。プリウスでハイブリッドカーを世界に広めたトヨタ<7203>でも、次のイノベーションと位置付けて燃料電池自動車「MIRAI」の一般向け発売を開始した。「MIRAI」の一回あたりの水素充填時間は約3分。そして一充填走行距離は、参考値で約650km。水素ステーションの整備と車体価格が普及のカギとなりそうだが、それさえクリアできれば、ガソリン車と変わらない使い勝手となるだろう。もちろん発電時にCO2を出さないので、環境問題も大幅に改善されるだろう。
住宅業界で積極的に新築戸建て住宅のゼロエネルギー住宅化(ZEH)を進めている最大手の積水ハウス<1928>は、COP21において「建築および建設部門における共同宣言」に賛同・署名した。同社はすでに年間5000棟以上の燃料電池付き新築住宅を販売しているが、今後は安倍首相が「2020年までにハウスメーカー等の新築住宅の過半数をZEH化する」ことを宣言したことを受け、ZEHを2020年までに新築住宅の80%までに高めるという自主宣言を発表した。さらに、リノベーション物件・既存住宅へのアプローチを積極的に行う方針を示しており、省エネリフォームを積極的に推進することも含め、日本政府の目標達成に必要な家庭部門の39.3%削減を、新築のみならずストックまで含めて達成することを目指している。
さらに燃料電池が期待されるのは、車と家だけではない。2016年4月よりこれまで各地域で決まった1つの電力会社しか行えなかった、家庭や小規模事業所向けの電気の小売販売への新規参入が可能になるが、いわゆる新電力の事業者にとっても小型で高効率な発電装置は魅力だ。すでに電力事業参入を表明している大阪ガス<9532>では、京セラドーム大阪を含む大阪市西区岩崎地区で地域熱供給システムを備えた特定電気事業を開始している。従来、発電と同時に出来る熱の多くは有効利用されなかったが、新たな制度が導入されることでこれまで未利用だったエネルギーが有効に活用されることにつながりそうだ。
今回のCOP21は国連の会議として政府同士が削減目標に取り組むことで合意に達したが、削減目標の実現のためには国民全体への広がりが欠かせない。今後は民間企業が独自に取り組むなど、活動が広がり地球温暖化を抑制する優しい未来を創造する契機になることが望まれる。(編集担当:藤原伊織)