日本全国の湖沼の水生植物100年の変遷 東邦大がデータ公開

2014年05月06日 08:42

 東邦大学 理学部生命圏環境科学科 西廣淳准教授らの研究チームは28日、日本の268の湖沼について過去100年以上にわたる水生植物相の変遷を示すデータベースを作成し、公開した。このデータベースは生態学の国際誌であるEcological Researchのデータペーパー(査読付オンラインデータベース)として公表される。

 生物多様性の重要性というものに注目が集まる中、生態系の状態を知る上で最も基礎となる情報が整理されたという点で画期的であるという。今後の環境保全に関する調査・研究・政策に活用されることが期待される。

 現在、2010年に開催された生物多様性条約COP10で採択された「愛知目標」の達成に向け、森林や河川・湖沼など、様々な生態系を対象に「生物多様性の変化と現状」を把握することが求められている。そのため、日本でも環境省が環境研究総合推進費を活用し、「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究」を推進している。今回のデータベースもそのプロジェクトの一環として作成された。データペーパーは西廣准教授を筆頭著者とし、国立環境研究所の高村典子博士、小川みふゆ博士、東京農工大学の赤坂宗光講師が共著者となっている。

 公開したデータベースは、日本の268の湖沼における水草などといった水生植物の分布データを、200以上の文献資料から収集し、19世紀末(1899年)から現在にかけての100年以上にわたる期間の水生植物相、 “どこに何の水草が生育していたか” の変遷を示したもの。日本の湖沼の水生植物が近代化とともにどのような変遷を遂げてきたのかを把握することができる。このような“どこに何という名前の生物がいたか” という生物相のリスト作成は、生態系の状態を知る上で最も基礎となるデータだという。

 生物多様性とは、地球の長い歴史の中でつくられてきた様々な生物とその繋がりのこと。それぞれ生物は様々な環境に適応し進化して現在に至る。これらは直接または間接的に支え合って生きており、人間に利をもたらすことを「生態系サービス」とも呼んでいる。生態系の形は場所により変わることから、それぞれの場所での継続的なモニタリングが必要となる。ここで得られた情報を体系化したものが、環境保全・修復する際、目指すべき目標を設定する上で重要な役割を果たすとしている。

 また、特筆すべきことは、収集した文献が学術雑誌や図書だけでなく、市民調査の報告書(市民データ)など各地域に“埋もれていた”情報もその信頼性を確認した上、学術文献らと比較・検討できるような状態にして収録していること。こうすることでより精度の高い情報を提供することができ、さらに市民データも国際的な研究・情報発信に活用されうることを示しているという。このデータベースは、「生物多様性モニタリング」のため今後も情報を更新していく予定だ。(編集担当:慶尾六郎)