東北大が難病クッシング病の新規治療薬を開発

2016年01月07日 08:28

 クッシング病とは、脳下垂体に発生した腫瘍(下垂体腫瘍)が原因となってホルモンのバランスが崩れ、肥満、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、筋力低下、多毛、免疫力低下やうつ状態などを引き起こす疾患。脳下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰になることから、副腎皮質からステロイドホルモンが過剰産生され、様々な症状を引き起こす。

 未治療の状態では心・血管病変や感染症により命にかかわる場合があるという。治療法としては、下垂体腫瘍を外科的に摘出することが第一選択だが、手術をしても症状が改善しない場合や術後の再発、病変部位によっては手術不可能な場合がある。このため、そのような難治患者に対しては薬物療法が必要となるが、現状では下垂体腫瘍をターゲットとした有効な薬剤が存在していないという。

 今回、東北大学大学院医学系研究科 分子内分泌学分野の菅原明教授らの研究グループは、難治性内分泌疾患であるクッシング病の新規治療薬として、レチノイン酸(ビタミンAの代謝物)の受容体に対する薬剤である HX630が有効である可能性を見出したと発表した。

 この研究で薬剤HX630がACTH産生腫瘍に対するACTH分泌抑制作用・細胞増殖抑制作用を有することが初めて明らかとされたことから、HX630が将来的に難治性クッシング病の新規治療薬たりうる可能性が示されたとしている。

 クッシング病の治療薬としては、腫瘍の細胞増殖と腫瘍からのACTH分泌の両者を抑制することが条件となるが、現在、有効な治療薬がない。以前同グループは、ホルモン核内受容体であるRXRが下垂体ACTH産生細胞やヒトのクッシング病組織で発現していることを見出していたことから、今回、RXR活性化剤であるHX630がクッシング病の治療薬となる可能性を検討した。

 試験管内の実験において、マウス下垂体由来ACTH産生細胞であるAtT20 細胞にHX630を添加したところ、同細胞からのACTH分泌が抑制されることが見出された。このメカニズムとして、HX630がACTHの前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)の遺伝子発現を、転写因子Nur77・Nurr1を介して抑制していることが明らかとなった。

 さらに、HX630がAtT20細胞に対して増殖抑制作用・アポトーシス促進作用も有することも認められた。そこで、ヌードマウスにAtT20細胞を移植してACTH産生腫瘍を形成した後にHX630を投与したところ、その結果、HX630投与群では対照群と比較して有意に腫瘍の増殖が抑制されていたという。これらの結果から、HX630は難治性クッシング病の新規治療薬となる可能性が示されたとしている。(編集担当:慶尾六郎)