近年、新興市場を中心とした上場企業の不適切会計問題などを背景として、監査法人のクライアント企業に対する監視体制、関係性が問われる一方、金融庁は“運営が著しく不当”である監査法人に対して厳しい処分を下し、上場企業として事業実態が乏しい、業績と連動しない株価推移をみせるなど、背景が不可解な企業の経営環境は徐々に狭められ、そうした企業の監査を担当する監査法人は警戒される傾向にある。
これを受け、帝国データバンクは 2015年(1月~12月)に監査法人(国内の監査法人を対象、公認会計士事務所の異動を含む)の異動を開示した上場企業の株式市場や監査法人の名称、異動理由などについて調査した。
それによると、2015年(1月~12月)に監査法人の異動を発表した上場企業は85社(そのうち5社は 2016年に異動、3社は後任の監査法人が未定として発表)。株式上場している市場別に見ると、「東証 JASDAQ」が41社(構成比48.2%)で最も多く、以下、「東証1部」(16社、構成比18.8%)、「東証マザーズ」(12社、同14.1%)、「東証2部」(11社、同12.9%)と続き、「名証2部」「札幌」「福岡」「東証プロマーケット」「東証 J-REIT」が各1社(構成比1.2%)となった。
85社の87回の異動について、その理由を見ると「任期満了」によるものが 68回(構成比 78.2%)で最多となった。この68回をさらに細分化すると、14 回は“任期満了に伴い親会社、子会社などのグループ会社と監査法人を統一させるため”となっているほか、2 回は“任期満了とともに監査法人から辞任を申し入れられた”となっている。その他の大半は任期満了に伴い事業規模、費用、経験などを考慮して異動を決定したとなっている。
今後、企業コンプライアンスがより重視されるなかで、監査法人と企業間に生じる意見対立を要因とする異動や行政処分など監査法人の運営体制問題を要因とした異動の構成比が高まっていく可能性があるとしている。なお、87回の異動のなかで「監査法人より退任、契約解除、契約不継続の申し入れ」は4回、「今後の監査対応等について協議し、監査契約を合意解除」は3回、“任期満了とともに監査法人から辞任を申し入れられて異動”は 2 回となった。これらのなかには監査法人がクライアント企業を警戒・回避する動きが要因(または一因)となり異動に至ったものも含まれると見込まれるとしている。
87回の異動について退任した監査法人を見ると、「有限責任監査法人トーマツ」が21回で最も多く、以下、「新日本有限責任監査法人」(8 回)、「アーク監査法人」「清和監査法人」(各6回)、「清新監査法人」「監査法人和宏事務所」(各4回)と続いた。「アーク監査法人」と「清新監査法人」は、合併に伴いそれぞれ明治アーク監査法人、至誠清新監査法人への変更に伴うものという。
なお、「新日本有限責任監査法人」「清和監査法人」「東京中央監査法人」「監査法人セントラル」「九段監査法人」「有限責任クロスティア監査法人」については、運営が著しく不当であるなどとして2014年から2015年にかけて金融庁から処分を受けているとしている(東京中央監査法人は 2015年12月に事業継続が困難となり解散)。(編集担当:慶尾六郎)