がん細胞が“俊足”になる仕組みを解明

2016年03月17日 08:29

 九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一准教授らの研究グループは、がん細胞が浸潤や転移するときに示す高い運動性に関わるブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の分子メカニズムを明らかにした。ブレブの形成メカニズムの解明は、がん細胞の浸潤や転移を抑制する新たな治療法の開発に繋がることが期待される。

 細胞ががん化すると、互いの細胞接着が壊れて高い運動性を獲得し、他の臓器へ転移する。近年の研究では、この運動性の原因としてブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の突出を使った移動方法を利用していることが明らかになっていたが、ブレブの分子メカニズムまでは分かっていなかった。

 研究グループは、ブレブに特異的に集積する遺伝子の探索とその機能解析を行った。 実験の結果、①ブレブが拡張する時期には、Rnd3と呼ばれる低分子量Gタンパク質が重要な働きをすること、②逆にブレブが退縮する時期には、別の低分子量Gタンパク質のRhoA が重要な働きをすること、を突き止めた。

 これまでの研究で、Rnd3 はRhoA の働きを抑える働きがあり、逆に RhoA はRnd3 の機能を低下させることが示されている。これらのことから研究グループは「ブレブの拡張期にはRnd3が優位となり RhoAの活性化を抑えているのに対し、ブレブの退縮期には RhoAが優位となりRnd3の活性化を抑えている。Rnd3とRhoAが交互に優位になることによって、持続的な細胞運動に必要なブレブの形成と退縮のサイクルが成り立っていることが初めてわかった」としている。

 がん細胞は自分自身が置かれた環境を感知し、Rnd3とRhoA によるブレブ形成機構のスイッチを入れて、早い運動モードに切り替えている。ブレブに関わる具体的な分子ネットワークが明らかになったことにより、将来的にはがんの浸潤や転移に対する新たな治療法の開発につながることが期待される。(編集担当:城西泰)