近年、リチウムイオン電池を利用したアプリケーションが増加している。リチウムイオン電池とは、正極のリチウム酸化物と負極の炭素化合物の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う2次電池のことで、ニッケル水素電池の1.5倍から2倍の電池容量と3倍の動作電圧を持つといわれている。
折しも、2016年3月22日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDOのプロジェクトにおいて、トヨタ自動車<7203>と東京工業大学の研究グループが、リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池の開発に成功したことを発表したばかり。さらには、3月18日には自然科学研究機構分子科学研究所と東京工業大学、京都大学、高エネルギー加速器研究機構の研究チームが水素陰イオン使う新蓄電材料の開発を発表した。ただ、これらが実用化にはまだ時間がかかり、やはり現状においてはリチウムイオン電池が最も有効な蓄電池といえるだろう。富士経済が発表した「エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望2014」でも、2015年/2025年比較で、リチウムイオン電池を使用した電力貯蔵分野は9倍強、動力分野(自動車除く)は6倍強の成長を予測している。
しかし、優秀なリチウムイオン電池にも大きなデメリットが存在する。それはリチウムイオン電池は常にセル電圧を監視していないと、過充電が発生し電池が発熱、最悪の場合は発火、爆発の恐れもあるということだ。2013年にはボーイング新型旅客機787のリチウムイオンバッテリーが発火するという事故が発生したのも記憶に新しいが、同事故以来、電池監視(一次保護)LSIが何らかの理由で動作しなくなった際の対策として、二次保護LSIを使用するケースも増えてきている。また、自動車にもエコカーなどでリチウムイオンの需要や用途が拡大する中、さらなる信頼性の確保が社会的に求められているのだ。
そんな中、ロームグループ<6963>のラピスセミコンダクタが3月18日、業界最大の14直列セル、最大80Vに対応したリチウムイオン電池二次保護LSI「ML5232」の開発を発表している。従来、二次保護LSIは4直列対応が主流であり、、複数の二次保護LSIとその周辺回路が必要だった。今回、ラピスセミコンダクタが開発した「ML5232」は最大14セル直列まで対応できるため、大半の回路をLSI1個で置き換えることが可能となり、部品点数の大幅に削減と、回路の簡略化を実現するという。さらに過充電検出時にヒューズを切断すると同時に、充電制御用MOS FETもオフにすることができる2種類の保護信号を搭載しているため、システムの高信頼化も期待されている。
スマートフォンやタブレット機器などのモバイルコンシューマ用途だけでなく、電動アシスト自転車や、EV・HEV・PHVなどのエコカーの動力、家庭向けの蓄電池システム、大規模な発電設備に至るまで、世界中のあらゆる場面、あらゆる分野で大小様々なリチウムイオン電池の需要が拡大する中、用途や規模にかかわらず、安全性は常に確保してもらいたいものだ。高い安全性を維持しつつ、小型化にも貢献する製品の開発は、日本の技術力の見せどころでもある。(編集担当:藤原伊織)