化合物KUS剤が緑内障の進行を抑制する 京大らがモデルマウスを用いて解明

2016年04月26日 07:53

 緑内障は、日本において視覚障害原因の第1位の原因疾患であり、40 歳以上の日本人の 5%に緑内障の兆候があるとされている。実際にはっきりとした症状がある患者数は 300~400 万人(日本)と推定されている。現状では、薬剤や手術治療によって、眼圧(目の中の圧力)を下げることが唯一の治療法だが、眼圧を十分に下げるのが難しい例や、眼圧を十分に下げてもなお視野障害が進行する場合が少なくないという。

 今回、京都大学の池田華子医学研究科准教授、吉村長久同特命教授、垣塚彰生命科学研究科教授、ダイトーケミックスらの研究グループは、神経保護効果をもつ化合物KUS剤が、緑内障の進行を抑制することを、3種類のモデルマウスを用いて明らかにした。

 同グループは網膜神経節細胞・神経線維の変性・死滅を予防・抑制することにより緑内障の進行を食い止めるというこれまでに無い視点から研究を行った。具体的には、近年開発したKUS剤(体中の細胞に大量に存在し、細胞内のエネルギー源ATPを消費する蛋白質(ATPase1)の一つであるVCP2のATP消費を抑制する低分子化合物)に緑内障の進行抑制効果があることを、3つの異なる緑内障モデルマウスで確認した。

 緑内障の発症要因の 1 つは、体内で産生される(内在性)興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸による神経の過剰興奮が網膜神経の細胞死を招くためだと考えられている。この実験では、マウスの眼内にグルタミン酸と同じ神経興奮をもたらす NMDA4 という物質を注射し、緑内障で観察される網膜神経節細胞障害を起こしたうえで、KUS 剤を投与した。その結果、KUS 剤を投与したマウスでは投与しなかった個体に比べ、網膜神経節細胞の減少が抑制されることがわかった。

 続いて、内在性のグルタミン酸によって緑内障を発症するGLAST(glutamate aspartate transporter)遺伝子のノックアウトマウス5でKUS剤の効果を検証した。GLASTとは、シナプス間隙のグルタミン酸を神経細胞に取り込む輸送体のことで、GLAST が減りシナプスでのグルタミン酸濃度が上がったままのノックアウトマウスでは神経興奮が過剰におこる。KUS 剤の投与がないマウスでは、網膜の神経節細胞の数や網膜の神経線維の数が減少し緑内障兆候が見られるが、KUS121を10カ月間投与したマウスでは、その減少が抑制されていたという。

 また、典型的なヒトの緑内障では、眼圧が高くなることで神経節細胞が障害を受ける。この状況でのKUS剤の有効性を確かめるため、眼圧が高くなるタイプの緑内障モデルマウス(DBA/2J マウス 6)でも検証を行った。KUS剤を投与していないマウスでは、眼圧が上昇後しばらくすると、緑内障患者に見られる特徴的な所見である視神経乳頭の陥凹の拡大が見られるが、KUS剤を投与したマウスにおいては、陥凹拡大が抑制されていることが確認できたという。

 この研究により、現在眼圧を下げることが唯一の治療法である緑内障に対して、神経保護という新たな観点からの治療薬の開発に繋がることが期待できるという。さらに、網膜神経の細胞死によって引き起こされる他の眼疾患や神経変性疾患など、他の疾患への応用も期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)