かつてSFなどにおいて「夢物語」として語られてきたナノマシン、マイクロロボット。早ければ今年中にも、それらががん治療の現場において実用化されるかもしれない。
このナノマシンを用いた治療では、直径がおよそ50ミクロンメートルほどの大きさで、ポリエチレングリコールおよびアミノ酸の一種であるアスパラギン酸をリン酸カルシウムによってコーティングした極小カプセルを人体に注射し、血流によって全身を移動させる。
がん細胞は常に栄養素を必要としているため周囲に存在するさまざまな物質を取り込もうとする性質があり、また同時にがん細胞の血管は隙間が多いためカプセルを容易にがん細胞内部に侵入させることが可能となる。
そしてがん細胞の内部は正常な細胞と比べて酸性度が高く、カプセル表面のリン酸カルシウムを溶かす働きがある。この溶解現象がトリガーとなる形でカプセル内部の抗がん剤物質が放出されたり、核反応が起こされたりすることにより、がん細胞を内部から攻撃するのだ。
これまでの抗がん剤、放射線を用いた治療ではがんに侵されていない正常な細胞も同時に攻撃することとなり、結果として患者の身体に大きな負担がかかってしまうということが問題となっていた。しかしこの方法では、ごく限られた範囲内でのみ攻撃を行うため、そうしたダメージを最小化することが可能となる。
東京大大学院工学系研究科の片岡一則教授がリーダーを務める研究チームは昨年6月、実際にこのナノマシン(高分子カプセル)に抗がん剤を閉じ込め、それを体内に注射しがん細胞の元へと送り届けるというドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の開発に成功しており、既に国内では既存の抗がん剤と併用をする形で再発乳がんを対象とした臨床試験が行われている。また、海外でもすい臓がんや肺がんなどにおいて臨床試験を行なっている。
乳がんを対象とした本格的な臨床試験は早ければ今年中にも行われる予定であり、これが本格的に実用化をされれば近い将来、がんを日帰りにて治療するということも一般化するかもしれない。
また内部にセンサーを搭載するタイプの、より精度の高いカプセルの開発研究も進んでいる。これが実用化されれば脳腫瘍などのより治療が難しい種類のがんにも応用が可能になるのではないかと期待されている。(編集担当:久保田雄城)