豪腕ゴーン氏の三菱自動車支援。が、疑惑残した再生はあり得ない

2016年05月14日 11:50

Nissan_Mitsubishi

日産の支援を受けて、当面の危機を乗り切ったとしても、法令や消費者を軽視する企業体質が温存されれば、再生とは言えない。三菱は不正の膿を徹底して洗い出す必要がある

 1999年、フランスの自動車メーカー・ルノーが日産自動車の株式の36.8%を取得し資本提携する。このとき、ルノーが日産に送り込んだのが、ルノーの豪腕副社長だったカルロス・ゴーン氏である。グローバル企業ルノーが育てた、当時45歳の若き「経営のプロ」だった。

 ゴーン氏は日産自動車の最高執行責任者(COO)に就任、翌2000年6月には社長で最高経営責任者(CEO)に就く。そして、いち早く「日産リバイバルプラン」を作り上げる。

 その「日産リバイバルプラン」発表時の日産のプレスリリースを再度見ると、非常に過酷なリストラ敢行が宣言されていた。コスト・カッターと恐れられたゴーン氏が示した内容は具体的で、従来の日産経営陣が成し得なかった、工場などの生産拠点の閉鎖、資産の売却、総従業員14%におよぶ2万1000名の人員削減、子会社の統廃合、取引先や原材料仕入れの見直しなどの大リストラである。これは日産だけでなく、日本経済にも大きなショックを与えた大再構築だった。日産自動車はこの改革によって経営危機を乗り越え、その後、復活を遂げる。

 その日産自動車のゴーン氏が、燃費不正問題で世間の激しい非難を浴びている三菱自動車に対し資本参加を突然発表。三菱自動車が、日産自動車から34%の出資を受ける資本業務提携を結び、再建を目指すことになった。

 三菱は不正を繰り返した原因を徹底して洗い出し、その根を断たねばならない。過去に大規模なリコール隠しなどが内部告発で判明したが、その教訓を生かせなかった背景には、別項で記した“東大卒と重工出身の呪縛”に取り憑かれた傲慢さと、意思疎通を欠いた縦割りの企業風土がある。三菱グループ御三家とも言われる三菱「銀行」「重工」「商事」からの支援が受けられるとの甘えを指摘する声も多い。改革はひと筋縄では行かない。

 ゴーン氏は記者会見で、「日産は三菱自に経営と企業統治の知見を提供できる」と語り、意識改革を進める考えを示した。リスク覚悟のうえで三菱自動車救済に乗り出すゴーン氏の狙いは何だろうか。

 ゴーン氏が三菱自動車をどう改革するのか。

 三菱自動車は日産の傘下に入っても茨の道が待ち受けている。三菱自動車についてゴーン氏は「自主的な経営を行ってもらう」と述べ、三菱ブランドを維持する考えを示した。過半数を出資しない理由については「力関係ではない。対等なパートナーシップだ」と強調。ルノーと日産のアライアンスに触れて協力関係の重要性を強調した。

 しかしながら、生産や購買、開発で規模のメリットを貪欲に追求するコスト・カッターのゴーン氏率いる“ルノー日産アライアンス”に加われば、これまでの取引先や人員配置などを大幅に見直す必要が出てくる。系列破壊や拠点の合理化、大規模な人員整理を断行した苛烈とも言われた「日産リバイバルプラン」は再現されるのか。三菱自動車に残る“甘え・ぬるま湯、隠蔽体質”にメスを入れることは間違いない。まずは今回の本格的資本提携を受け、現三菱自動車の役員が総入れ替えとなり、日産(ゴーン氏)が推す、会長を含む取締役候補を提案することになろう。

 世界のM&Aに目を見やれば、企業再生にあたって想像もつかない状況に追い込まれた事例は多い。リストラどころか、バラバラに切り刻まれて売り飛ばされることもある。上層部の全員解雇や大幅賃金カットが実行されることもある。再生・成長を目指すには、資金面を含めて極めてシビアな経営が求められるのは言うまでもない。

 日産の傘下に入ることで、当面の危機を三菱自動車が乗り切ったとしても、法令や消費者を軽視する企業体質が温存されれば、再生とは言えない。三菱は不正の膿を徹底して洗い出さねばならない。(編集担当:吉田恒)