【自動車業界の2016年3月期決算】海外の販売台数は引き続き伸びても、今期は円高で円ベースの売上、利益の目減り覚悟

2016年05月23日 07:28

 ■今期は海外で販売台数を伸ばしても金額では円高差損に相殺される

 2016年度(4~3月)の国内新車販売台数(軽自動車含む)について、日本自動車工業会は525万8000台と予測しているが、これは2017年4月に消費税率の10%への引き上げが予定通りに行われて、直前に駆け込み需要が出てくるという想定に基づいた数字。もし増税が先送りされれば、2年連続の500万台割れもありうる。

 新年度に入った4月以降、三菱自動車の燃費データねつ造問題の発覚、三菱の日産・ルノー傘下入り、燃費データねつ造問題のスズキへの飛び火と大きなニュースが相次ぎ、今期の自動車業界は最初から波乱模様。各社とも今期の想定為替レートを引き下げ、トヨタ、日産、ホンダはドル円について前期比15円減(円高)の105円とした。今後、ドル円が110円から115円へ円安方向に振れて業績見通しを上方修正するようになるのか、それとも逆に100円を割り込むような円高局面が来て下方修正するようになるのか、予断を許さない。

 2017年3月期の通期業績見通しは、トヨタ<7203>は売上高6.7%減、営業利益40.4%減、税引前当期純利益36.3%減、最終当期純利益35.1%減の減収、大幅減益を見込む。予想年間配当は未定。熊本地震の影響は織り込んでいない。ダイハツ、日野を含むグループ全体の世界販売計画台数は6万台増の1015万台で、設備投資は4%増の1兆3500億円を見込んでいる。

 減益は東日本大震災とタイの洪水の影響を受けた2012年3月期以来5期ぶり。その最大の要因は円安の追い風が止まることで、「今までは追い風参考記録」「今年に入って大きく潮目が変わった」「意志が本物かどうかが試される年」(豊田章男社長)と気を引き締める。通期想定為替レートはドル円が105円、ユーロ円が120円で、為替変動で営業利益が9350億円も押し下げられると見込んでいる。決算発表と同時に発行済み株式数の3.24%にあたる1億株、5000億円上限の自社株買いを発表した。

 日産<7201>は売上高3.2%減、営業利益10.5%減、経常利益7.2%減、当期純利益0.2%増の減収、最終増益を見込む。予想年間配当は6円増配の48円。世界販売台数は3%増の560万台の計画。引き続き北米市場や中国市場で販売が伸びても、通期想定為替レートはドル円105円、ユーロ円120円で、円高のために円ベースの営業利益は2550億円も押し下げられるとみている。三菱自動車を事実上傘下におさめる影響は見通しには織り込んでいない。

 ホンダ<7267>は売上収益5.8%減、営業利益19.2%増、税引前利益10.9%増、最終当期利益13.2%増の減収、2ケタ増益を見込む。予想年間配当は88円で据え置き。四輪車のグループ世界販売台数は4%増の491万5000台。しかしドル円の想定為替レートを前期よりも15円円高の105円に設定し、円ベースでの売上減を覚悟している。それでも利益面は、営業利益を3030億円押し下げると見積もる円高の悪影響をコスト削減の努力で吸収できるという。タカタ製エアバッグのリコール費用の引き当てもメドがつき、これ以上の追加出費はないと見込んでいる。

 マツダ<7261>は今期の想定為替レートについて、前期比で米ドルが10円円高の110円、ユーロ円が8円円高の125円と、為替の円高修正を見積もっている。それを織り込んで売上高3.7%減、営業利益25.0%減、経常利益21.3%減、当期純利益14.4%減の減収減益を見込む。それでも期末で5円増配し、年間配当は5円増配の35円の見通し。グローバル販売台数は1.0%増の155万台で、北米は2.5%増で最も伸びると見込んでいる。今期は中期経営計画「構造改革ステージ2」の初年度。2015年5月に「SKYACTIVE技術」でトヨタと包括的業務提携を結んだ効果も、そろそろ出てくる頃だろう。

 富士重工<7270>は売上高は1.9%減、営業利益25.7%減、経常利益27.2%減、当期純利益32.9%減の減収、大幅減益を見込む。予想年間配当は144円で据え置き。5期ぶりの減益決算。主力のSUVは北米市場中心に販売増が続くと見込んでいるが、円高の進行で円ベースの売上、利益が下押しされると見込んでいる。想定為替レートはドル円が105円程度で、前期の121円よりも16円の円高。それでも北米では好調なので中期経営計画の最終年度2020年度の世界新車販売計画を110万台から120万台に上方修正した。決算と同時に発行済み株式総数の1.92%にあたる1500万株、480億円上限の自社株買いの実施も発表。2017年4月1日に社名を富士重工業からブランド名の「SUBARU」に変更する。おうし座プレアデス星団の和名「すばる」が今や全世界に浸透している。

 三菱自動車<7211>は4月20日、国土交通省に提出した燃費試験データで不正な操作が行われ、国内法規で定められたものと異なる試験方法をとっていたことを公表した。将来の影響を慎重に見極めるため、2017年3月期の業績、配当見通しの発表を当分の間、延期した。相川哲郎社長は決算発表の記者会見で、不正発覚後、国内の1日あたりの新車受注台数が半減していると明らかにした。

 スズキ<7269>は売上高2.5%減、営業利益7.8%減、経常利益11.5%減、当期純利益20.3%減の減収減益を見込む。前期の増収増益から一転、最終2ケタ減益を見込む。予想年間配当は32円で据え置き。インドでもヨーロッパでも四輪車販売が伸び世界販売台数は約3%増の295万台を見込んでいる。二輪車は黒字転換を目指す。しかしドル円の想定為替レートは前期より15円円高の105円で、円高により円ベースの営業利益は620億円圧迫されるとみている。そのうち対インドルピーの分は266億円を占める。5月18日に三菱自動車と同じように国土交通省に提出した燃費試験データで国内法規で定められたものとは異なる試験方法をとっていたことが判明。その影響が今期業績にどれぐらい影響するかは、現時点ではまだわからない。

 ダイハツ工業<7262>は1月29日にトヨタと株式交換契約を締結しており、株主総会で承認されれば7月27日に上場廃止になる予定。そのため業績、配当の見通しを公表していない。上場企業としての決算発表は第1四半期の4~6月期が最後になる。(編集担当:寺尾淳)