ネット通販市場が拡大しているなか、2015年度の通信販売・訪問販売小売業の倒産は調査開始以来、最多の74件に達した。通販業界は参入障壁が低く、テレビ、ラジオに加え、ネット市場の拡大で地方の企業でも十分成長できる市場である。だが、固定客を掴むと経営が安定する一方、消費者の嗜好変化や口コミなどの評判に左右され易く、マーケティングなど経営のかじ取りは難しい。さらに、通販サイトでの不正ポイント取得など、急成長に伴うコンプライアンス違反が発生しており、業界全体で取り組むべきモラルの向上が求められている。
東京商工リサーチは、2015年度「通信販売・訪問販売小売業」の倒産状況を発表した。それによると、2015年度(2015年4月-2016年3月)の通信販売・訪問販売小売業の倒産は74件(前年度比25.4%増、前年度59件)に達した。これは調査を開始した2009年度以降では2014年度(59件)を上回り、年度ベースでは過去最多になった。
また、負債総額は167億4,600万円(前年度比228.7%増、前年度50億9,400万円)で、前年度より3.2倍増に膨らんだ。負債10億円以上の大型倒産が2件(前年度ゼロ)発生したことで、1件当たりの平均負債額が2億2,600万円(前年度比162.7%増、前年度8,600万円)に増加した。
2015年度の通信販売・訪問販売小売業の倒産をみると、インテリア用品や美術工芸品など「その他」が最多の26件(前年度比85.7%増、前年度14件)だった。次いで、アパレル関連などの「衣服・身の回り品小売」が22件(同29.4%増、同17件)、衣食住にわたる各種商品を扱う「各種商品小売」が14件(同33.3%減、同21件)で、家電などの「機械器具小売」は8件(前年度1件)と急増ぶりが目立った。
形態別では、企業の解体・消滅である破産が69件(前年度比27.7%増、前年度54件)で、全体の9割(構成比93.2%)を占めた。これに対し、再建型の民事再生法は2件で、業績不振に陥った企業の再建が難しいことを物語っているとしている。
原因別では、販売不振(業績不振)が49件(前年度比16.6%増)。次いで、他社倒産の余波が8件(同14.2%増)、事業上の失敗が7件(同40.0%増)、既往のシワ寄せ(赤字累積)が4件(同33.3%増)の順だった。
従業員数別では、5人未満が58件(前年度比11.5%増、前年度52件)になり、小規模事業者の倒産が全体の約8割(構成比78.3%)を占めた。また、2010年度以降に設立された事業者は20件(構成比27.0%)で、設立から日が浅い5年以内の新規事業者が約3割を占めた。
2015年度の通信販売・訪問販売小売業の倒産件数が調査開始以来で最多になった要因には、スマートフォンやパソコン経由の取引拡大を背景に、中小企業のネット通販への参入など、裾野の拡大が過当競争に拍車をかけていることが挙げられる。通販事業は人手が少なくても、個人でも事業の立ち上げが可能な一方で、消費者の嗜好変化や評判に敏感に左右される面が強い。同業他社との差別化などの「強み」がなければ淘汰され易く、そのスピードが速くなっている。
倒産事例をみると、円安による輸入品などのコスト上昇から、価格面での競争力を喪失して企業体力が消耗したケースもみられた。景気動向によっては先行き懸念から、個人消費の節約志向が強まる可能性があり、小規模企業を中心に経営環境がより厳しさを増すことも危惧され、今後の動向が注目されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)