7月28日、証券業界主要5社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。
主要5社に限らず、証券業界は軒並み業績悪化に見舞われた。4~6月期決算を発表した21社中18社が最終減益か、最終損益で赤字を計上した。株式の売買も投資信託の販売も低迷し、決算で売買手数料収入にプラスが見られた金融商品はリスク回避で買われた機関投資家向けの債券か、治よりも乱を好むFX(外国為替証拠金取引)ぐらい。世界的な株価の低迷で、企業活動に資産運用が不可分に組み込まれた機関投資家と違って、「株をやらなくても生きていける」個人投資家は、退潮が著しかった。
個人投資家の株式、投資信託の売買に依存する度合いが高いネット証券会社は、カブドットコム証券、松井証券、マネックスGとも減収減益決算。仲介した株式の売買代金が大幅減で、それに比例して委託売買手数料収入も大幅減。株式市場は6月に英国のEU離脱に伴って株価の大幅安が起きるなど概してふるわず、前年同期は日経平均が5月から6月にかけて12連騰するなど非常に好調だったこともあり、落差が大きくなった。
もっとも為替市場のボラティリティ(変動率)が高かったためにFXは例外的に取引が好調で、ネット証券の楽天証券、SBI証券、GMOクリックHDが最終増益になったのは、FXの手数料収入の増加が寄与している。
総合証券の野村HD、大和証券Gは海外事業の損益が黒字に転じた。海外では機関投資家の債券売買の比率が高い上に、4~6月期のNYなど海外の株式市場は概して東京市場よりもパフォーマンスが良く、赤字の海外法人を切り離すような構造改革や人員のリストラも前期で一段落していたため。
今後、投資家心理が改善して東京市場の株価が回復する希望を託せるとすれば、まず政府の経済対策や日銀の追加緩和が打ち出されること。大和証券Gの小松幹太CFOも「経済対策と日銀の金融政策に期待している」と率直に話している。
なお、マーケットの動向に大きく左右される2017年3月期の業績見通しは、証券業界の慣例で各社とも非公表となっている。
総合証券の野村、大和は海外事業のリストラ効果が出た
2016年4~6月期の実績は、野村HD<8604>は収益合計17.7%減、収益合計(金融費用控除後)20.2%減、税引前四半期純利益40.8%減、最終四半期純利益31.9%減という2ケタの減収減益決算だった。
国内では株式の売買、投資信託の販売が低迷し、個人営業部門は前年同期比で36%の減収で、税引前利益は83%も減り、リーマンショック直後の2009年1~3月期以来の低水準。6月末時点の預かり資産の時価総額も3月末の100兆円から95兆円へ5%減っている。アセット・マネジメント部門は増収増益だが運用資産は減少した。もっとも、海外部門は欧米での人員削減など前期までの構造改革、合理化が効果をあげ、円高で円ベースで目減りしながらも税引前利益は前年同期の赤字から4四半期ぶりの黒字に転じている。169億円の大幅黒字だが、それでも国内の業績悪化はカバーできなかった。
大和証券G<8601>は営業収益20.7%減、純営業収益26.3%減、営業利益52.6%減、経常利益48.4%減、四半期純利益45.2%減の2ケタ減収減益。4~6月期の株式市場はアップダウンが激しく、個人投資家が株の売買を手控えて委託手数料収入が減少。債券や投資信託の取引も悪く、個人向けのリテール部門は30%の減収だった。法人向けのホールセール部門も24%の減収。グループ全体で販管費を約1割絞り込んでも大幅減益は避けられなかった。それでも1~3月期に比べれば増収、2ケタ増益で最悪期は脱している。海外部門の経常収支は黒字化した。
カブドットコム証券<8703>は営業収益16.9%減、純営業収益15.2%減、営業利益34.8%減、経常利益35.2%減、四半期純利益30.9%増で、2ケタの減収減益という非常に悪い決算。株価の低迷で個人投資家の参加が減って業績を直撃。株式委託手数料収入は22%減で2014年第1四半期以来の悪さ。投信の販売手数料収入はさらに悪く45%減。だがEU離脱を決めた6月23日の英国の国民投票で盛り上がったFXは2%増だった。
松井証券<8628>は営業収益19.2%減、純営業収益17.9%減、営業利益33.0%減、経常利益32.6%減、四半期純利益30.4%減。4~6月期は株式市場が軟調で「一日信用取引」の導入などで拡大に力を入れてきた個人投資家の売買が低調になり、株式売買代金は7%減。そのため委託手数料収入が減少し、営業収益の受入手数料収入は22%も減った。
マネックスG<8698>は営業収益18.1%減、税引前利益77.8%減、四半期利益86.5%減、四半期純利益84.9%減で、2ケタの減収減益で、なんとか黒字を維持した。個人投資家中心の収益構造なので株価低迷の直撃を受け、トレーディング収益もふるわなかった。リストラを進めるアメリカ事業は4月に40人、7月に60人以上の人員削減を実施し、減益要因を止血。株式売買ソフト「トレードステーション」を軸とする「アクティブトレーダー・ビジネス」を本格的に始め、秋にはラップ口座のサービスを新たに開始するなど、7~9月期以降、国内の個人投資家向け部門で挽回を期す。(編集担当:寺尾淳)