【不動産業界の2016年4~6月期決算】2020年に向けて分譲は好調、賃料は上昇。巨額の開発投資を行っても資金が回る状態

2016年08月16日 07:08

 8月5日、不動産大手5社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。

 2020年夏の東京オリンピック開幕まであとちょうど4年。パラリンピック終了後にマンションとして販売される晴海地区の選手村22棟の開発には7月、三井不動産、三菱地所レジデンス、住友不動産など大手不動産会社、住宅メーカーなど11社が選ばれ、2017年1月に着工する。

 会場に近い東京都心部にも、地価の上昇が続く東京23区内にも、人口の流入が続く首都圏にも数多くの物件を保有・賃貸し、開発・分譲している大手不動産デベロッパーの業績はおおむね好調。三菱地所の東京駅前の390メートルの超高層ビル、野村不動産HDの「浜松町開発」など、東京都心部では大型プロジェクトの話がどんどん出てくる。オフィスの空室率は低下し賃料は上昇傾向。第1四半期が減収減益の三井不動産、東急不動産HD、2ケタ減収の野村不動産HDのように四半期ごとの数値の凹みはあっても、次の四半期でカバーできそうな状況にある。

 開発に着手してから、販売収入や賃料収入で投資を回収するまで「巨額の資金が寝てしまう」のが不動産デベロッパーの宿命。大手5社の有利子負債の合計はいま10兆円に近づいている。それでも今年2月に導入された日銀のマイナス金利政策によって借入、起債に伴う資金調達コストが低下し、販売用不動産の売却を急がなくても「資金が回る」状態。超低金利も好業績の追い風になっている。

 通期の業績は、全社が増収で最終減益は前期の反動が出る野村不動産HDだけという見通しに修正はなかった。三井不動産、住友不動産、東急不動産HDは通期の営業利益が最高益を更新する見込み。年間予想配当も現段階では変わっていない。

 ■四半期業績の悪化には一時的な要因も少なくない

 2016年4~6月期の実績は、三井不動産<8801>は売上高0.3%減、営業利益8.7%減、経常利益9.8%減、四半期純利益3.5%減の減収減益。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は27.4%。分譲事業は投資家向けビル物件など不動産売却が前年同期の約3分の1にとどまり、個人向けのマンション、戸建て販売も揃って減ったため17%の減収。ただしマンションに限れば東京都心の高級物件の比率が拡大して販売単価が上昇し営業増益に寄与している。賃貸事業は新規のオフィス、商業施設の稼働で賃料収入が増加し8%増収。オフィスビルの空室率は前年同期の4.0%から2.7%まで低下し、賃料の引き上げ交渉で有利になっている。

 三菱地所<8802>は営業収益8.2%増、営業利益27.0%増、経常利益33.5%増、四半期純利益17.6%増の増収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は31.8%。マンション販売は前年同期比132戸減の390戸にとどまったが、投資家向けのオフィスビル、賃貸住宅の物件売却は好調。第1四半期のオフィスビルの空室率は前年同期の3.5%から2.3%に改善し、坪あたりの平均賃料は前年同期比で約900円、3月末比でも87円上がって25321円。名古屋駅前の「大名古屋ビルヂング」、東京・丸の内の「大手門タワー・JXビル」が新規に稼働し賃料収入を稼ぎ始めた。賃貸住宅も好調。海外での物件売却に伴う一時的な収入も業績に寄与している。

 住友不動産<8830>は営業収益51.3%増、営業利益29.4%増、経常利益36.1%増、四半期純利益39.7%増という大幅増収増益の好決算。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は34.1%。分譲マンションは好採算の大型タワーマンションの販売が好調で、不動産賃貸事業は東京都心部のオフィスビルの空室率が大幅に改善し、稼働率が高まる上に賃料の上方改定も進んでいる。完成工事、不動産流通、不動産賃貸、不動産販売の主要4事業全て増収増益で、日銀のマイナス金利導入後の支払利息の低下で営業外損益が11億円改善し、大幅な経常増益に寄与している。

 東急不動産HD<3289>は売上高9.6%減、営業利益18.7%減、経常利益19.4%減、四半期純利益64.1%減の減収、2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は5.9%しかなかった。業績悪化の要因はオフィスや商業ビルで大型の売却案件があった前年同期の反動減。分譲事業は投資家向けのビル売却益が減少し、マンションは東京都心部以外の完成物件が多くなり平均販売単価が下落した。一方、賃貸事業は大規模再開発が進む本拠地の東京・渋谷周辺ではIT関連企業を中心にオフィス需要が旺盛で、オフィスビルも商業ビルも空室率が約1%と低水準で賃料も堅調に伸びている。熊本県内に連結子会社が保有するゴルフ場について熊本地震に伴う減損損失11億円を計上したことも最終利益を悪化させた。

 野村不動産HD<3231>は売上高23.0%減、営業利益19.2%減、経常利益19.4%減、四半期純利益8.0%増の2ケタ減収、最終増益。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は11.2%。住宅部門は売上高43.7%減、営業損益が7.25億円の赤字だったが、第2四半期以降に完成、売上計上される分譲物件が多いため。賃貸部門は売上高11.1%減、営業利益8.5%減。空室の改善で賃料収入は増加したが、収益不動産開発事業で物件売却が減少し業績の足を引っ張った。仲介・CRE部門は売買仲介の件数、取扱高増が寄与し売上高19.5%増、営業利益90.6%増と好調。運営管理部門は売上高0.9%増、営業利益3.6%増。固定資産売却益6.5億円を特別利益に計上して最終増益を確保した。

 ■野村以外は増収増益の通期見通しに修正なし

 2017年3月期の三井不動産<8801>は通期業績見通しは修正なし。売上高11.6%増、営業利益8.7%増、経常利益8.5%増、当期純利益6.2%増の増収増益で、2円増配して32円の予想年間配当も変わらない。マンションなど住宅販売戸数は前期比約1000戸増の6150戸で、投資家向けの不動産売却益も拡大を見込んでいる。賃貸事業は稼働率の高止まり、賃料の上昇を想定。8月に物流特化型のJ-REIT(不動産投資信託)を新規上場させたが、それに対して保有物件を売却した売却益を計上して増益に寄与するという。最終利益は過去最高を更新する見込み。

 三菱地所<8802>は営業収益9.2%増、営業利益5.3%増、経常利益3.6%増、当期純利益3.1%増の増収増益を見込む通期業績予想も、前期と同じ16円の予想年間配当も変わらない。東京・丸の内の通称「三菱村」周辺はオフィスの需給がタイトで賃料の上昇が続く見通し。マンション販売戸数は前期比132戸増の約4000戸を見込み、平均単価は約270万円増の5850万円。東京・港区に完成する「ザ・パークハウス・グラン南青山」のような高額物件が寄与するとみている。

 住友不動産<8830>は営業収益2.9%増、営業利益2.2%増、経常利益4.4%増、当期純利益10.5%増の増収、2ケタ最終増益を見込む通期業績見通しも、1円増配して23円の予想年間配当も修正なし。最終利益は4期連続で過去最高益を見込む。タワーマンションの販売の好調さに、3月に開業したオフィスビル「新宿ガーデンタワー」のような新規大型物件2件の賃料収入が加わる。

 東急不動産HD<3289>は第1四半期が減収減益だったが、それは前年同期の反動減が大きかったためで売上高3.0%増、営業利益6.2%増、経常利益8.2%増、当期純利益9.7%増の増収増益の通期見通しに修正なし。1円増配して13円の予想年間配当も変わらない。3月に東京都中央区に開業した大型商業施設「東急プラザ銀座」の賃料収入が寄与して営業利益を30億円程度押し上げる見通し。横浜市には高価格帯中心で採算性の良いマンション「ブランズタワーみなとみらい」が完成し、その販売収益が期待できる。

 野村不動産HD<3231>は売上高3.4%増、営業利益6.1%減、経常利益7.8%減、当期純利益8.9%減と増収減益を見込む通期業績見通しも、3円増配して60円の予想年間配当も修正していない。減益は、前期に計上した3本のREIT統合関連の手数料収入26億円がなくなる反動減が大きく、退職給付債務の割引率引き下げに伴う関連費用の負担増10億円も見込んでいる。オフィスビルの売却を増やして増収は確保できるという。

 8月に「東京・浜松町周辺で大規模な再開発に乗り出す」と報じられた。浜松町~品川間は三井不動産、三菱地所、東京ガス<9531>にJR東日本<9020>、京浜急行<9006>、西武HD<9024>など鉄道各社もからみ、構想段階も含めて開発プロジェクトが乱立するホットなエリアだが、報道によると完成は2030年で収益化は14年も先の話。(編集担当:寺尾淳)