【電子部品業界の2016年4~6月期決算】アップルのスマホ減産と円高で業績が悪化したが、アップルだけを頼りにはしない

2016年08月12日 07:39

 8月4日、電子部品大手7社の2016年4~6月期決算が出揃った。

 第1四半期はアップルのスマホ「iPhone」の減産と為替の円高に苦しめられ、自動車向けという大きな事業の柱があり受注増が続いている日本電産の営業利益以外は減収、減益のオンパレードだった。2017年3月期の通期業績見通しは7社トータルで2ケタの最終減益が見込まれている。

 受注の落ち込みも続く。大手6社トータルの4~6月期の受注額(日本経済新聞社調べ)は前年同期比7%減の約1兆2400億円で、1~3月期の4%減よりもさらに悪化した。3四半期連続で前年割れが続いている。高性能部品を供給し日本の電子部品メーカーの優秀さを世界に示したといわれるアップルの「iPhone」の販売不振、減産に加えて、ドル円レートが前年同期よりも13円も円高に振れた為替の円高で、円ベースの受注額はさらに減少している。

 秋になるとアップルからスマホ新機種「iPhone7」が発売される予定。それがユーザーに評価されて売れ行き好調が続いたら、電子部品メーカー各社も秋以降、通期業績見通しを上方修正できるかもしれない。もっとも、全体的にみれば各社は「アップル依存からの脱却」を進めているところ。もし「iPhone7」の売れ行きが思わしくなくても、中国製スマホやスマホ以外の事業領域に活路を見出せる可能性はある。

 アップルに恩義はあっても、「アップルがこけたら、皆こけた」という過度な依存体質は、まっとうな産業としては不健全だろう。

 ■減収減益が揃った理由はアップルの減産と円高

 2016年4~6月期の実績は、日本電産<6594>は売上高3.1%減、営業利益5.6%増、四半期純利益5.2%減で、2ケタの増収増益だった前期の通期決算とは様変わりの減収、最終減益。最終利益の2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は22.4%と少し出遅れた。前年同期よりもドル円レートが約13円も円高に振れ、海外収益が目減りして減収になったものの、営業利益は四半期としては過去最高を更新した。外貨建ての資産・負債の評価替えで営業外損失を約25億円計上し、経常利益、最終利益は押し下げられた。

 永守重信会長兼社長は決算発表会で、パワステ用など「車載向けモーターを中心に事業自体は好調が続いている」と話し、「事業の9割以上は外貨取引。実質的には大幅な増収増益」と発言。「決算では円建てなので計算上、こうなった」と言わんがばかりで、業績の安定、さらなる成長に向けて強気の姿勢を崩さない。海外M&Aについては「今年は、昨年買えなかったものが買える」と円高のメリットを強調し、積極化をにおわせている。

 京セラ<6971>は売上高5.7%減、営業利益62.3%減、最終四半期純利益44.7%減の減収、2ケタ減益。最終利益は前年同期比でほぼ半減し、2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は20.5%。4~6月期は為替のドル円平均レートが前年同期比13円の円高で、為替要因で250億円の減収、税引前利益で50億円の減益。アップルのiPhoneの生産調整をはじめ世界的にスマホ販売が減少したため、コンデンサー、コネクター、半導体保護部品など電子デバイス関連事業は8%の減収。太陽光発電の固定買取価格(FIT価格)が引き下げられ、太陽光パネルなどファインセラミック応用品関連事業も不振だったが、自動車用部品はアジアを中心に伸びていた。前年同期に計上した半導体部品事業の120億円の資産売却益がなくなったことも減益に拍車をかけた。

 アルプス電気<6770>は売上高10.0%減、営業利益62.4%減、経常利益76.1%減、四半期純利益69.5%増の減収、2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は8.2%しかない。カメラの手ぶれ補正部品のようなスマホ向け部品はアップルのスマホ「iPhone」現行機種の減産に加え、円高の打撃も受けている。それでも氣賀洋一郎取締役は「急な円高で環境は様変わりしたが、想定よりも良かった」と述べている。自動車向け部品は6%の増収で堅調。

 日東電工<6988>は売上収益17.1%減、営業利益55.8%減、税引前利益58.0%減、四半期利益63.2%減、最終当期利益63.4%減で、2ケタ減収減益、利益は前年同期の半分以下。最終利益の2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は9.7%にすぎない。スマホの世界的な減産で大型液晶向け偏光板、タッチパネル部材、光学フィルムの販売に陰りが出ていたが、販売不振で減産が続くアップルの「iPhone」への部品供給数が多いことに加え円高の進行で、採算が大幅に悪化した。外貨ベースでも減っている海外売上が円換算でさらに減り、利益が圧迫された。セグメント別では、「インダストリアルテープ」の売上収益は8.3%減、営業利益は16.7%減。「オプトロニクス」の売上収益は25.1%減、営業利益は74.8%減。「メディカル&メンブレン」の売上収益は5.9%増、営業利益は85.2%増と好調だった。

 村田製作所<6981>は売上高7.1%減、営業利益23.9%減、税引前四半期純利益22.8%減、最終四半期純利益19.1%減の減収、2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は21.1%。主力のコンデンサーは販売数量は伸びても単価が下落したため5%の減収。スマホ向けのLTE通信モジュールも売れなくなった。スマホの生産調整による減収、円高による採算の悪化、減価償却費の増加、研究開発費の増加などがあいまっての2ケタ減益で、販売管理費を削減する努力も焼け石に水だった。もっとも、アップルはダメでも中国製スマホメーカー向けは落ち込んではおらず、23.9%の営業減益も日本円ではなく現地通貨ベースなら5%程度の減益にとどまるという。

 TDK<6762>は売上高0.3%減、営業利益9.0%減、税引前四半期純利益13.5%減、最終四半期純利益5.3%減の減収減益。最終利益の2017年3月期の業績見通しに対する進捗率は24.8%。円高やアップルの減産の影響を受けながらも中国のスマホメーカーへの供給は逆に増加しており、それが4~6月期の減収幅が1%以下で、営業減益も1ケタにとどまった理由。電子部品は約6割、リチウムイオン電池は約7割が中国、韓国のスマホメーカー向けになっており、以前に比べるとアップル依存度は相対的に低下している。