【通信業界の2016年4~6月期決算】円高の影響が小さい国内型セクターなので決算は増収増益が揃った

2016年08月13日 08:33

 8月5日、通信業界4社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。

 NTT、NTTドコモ、KDDIは増収、2ケタ増益、ソフトバンクGは増収、2ケタ最終増益で、減益はソフトバンクの税引前利益だけだった。2017年3月期の見通しはNTT、KDDIは増収増益、NTTドコモは増収、2ケタ増益、ソフトバンクGは公表していない。

 NTTの「お荷物」だった地域会社(東西NTT)の採算も前期の光回線の「卸売化」で大きく改善し、通信業界大手は円高に苦しむ輸出関連企業を横目に、増収増益ペースが続いている。

 総務省がモバイル通信大手3社に「実質ゼロ円販売」を是正するガイドラインを示し、「2年縛り」の解消や通信料金の引き下げを要請。8月には公正取引委員会がモバイル端末販売の商慣行の問題点を指摘したが、顧客獲得競争は相変わらず。業績への影響は今のところみられない。もっとも、楽天モバイルやソフトバンクの第2ブランドのワイモバイルのようなMVNO(仮想移動体通信事業者)が個人ユーザーの間で契約数を伸ばしており、今後、モバイル通信大手3社の収益基盤を脅かす存在になるかもしれない。

 ■移動通信は好調が続き固定通信も採算が改善

 2016年4~6月期の実績は、NTT<9432>は営業収益0.4%増、営業利益35.9%増、税引前四半期純利益21.4%増、最終四半期純利益26.1%増の増収、2ケタ増益。四半期の純利益としては11年ぶりに過去最高を記録した。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は32.4%。

 営業収益は、モバイル通信のNTTドコモの約3%増収を東西のNTT地域会社の約4%減収が相殺して微増。地域会社の固定音声電話は長期低落傾向が続き、「フレッツ光」の光ファイバー回線は2015年2月から代理店への「卸売」を始めたので、売上は伸びていない。それでも卸売化で販促費が抑えられるなど地域会社のコスト削減が寄与して、連結ベースの営業利益は大幅増益だった。セグメント別では地域通信は80%の増益で移動通信の27%の増益より伸びが大きく、長らく「お荷物」だった東西NTTの採算改善が好業績をもたらしている。今期からグループ全体で減価償却の方法を「定率法」から「定額法」に変更し、減価償却費が全体で540億円減少したことも増益に寄与した。

 NTTドコモ<9437>は売上高3.0%増、営業利益27.1%増、税引前(法人税等及び持分法による投資損益前)四半期利益22.7%増、最終四半期純利益22.6%増で、増収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は32.3%。

 契約回線の純増数は前年同期比で約3割減ったが、契約1件当たりの月間平均収入(ARPU)は4330円で、前年同期比で320円の増加。モバイルのデータ通信、「dマーケット」などのコンテンツ収入の伸びに加えて、6月末時点の光回線の契約数が前年比で約5倍の207万件で、モバイル以外に光回線の収入が大きく伸びている。NTTとともに今期から減価償却の方法を「定率法」から「定額法」に変更し、減価償却費が約250億円減少したことも増益に寄与している。

 KDDI<9433>は売上高8.0%増。営業利益19.1%増、税引前利益16.3%増、四半期利益28.9%増、最終四半期利益16.1%増の増収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は30.9%。通信モジュールを含めた回線契約は前年同期比で約14%増の68万件だった。代理店に支払っている端末販売奨励金が約140億円減少し、それが増益に寄与している。契約者1人当たりのデータ通信利用料も伸びている。

 ソフトバンクG<9984>は売上高2.9%増、営業利益0.2%増、税引前利益5.3%減、四半期利益8.9%増、最終四半期利益19.1%増で増収、2ケタ最終増益。アメリカのスプリントは35%の営業減益だが、それは為替の円高で円建ての収益が目減りした影響が大きく、ドル建てでは1~3月期よりも業績は改善している。孫正義CEOは「スプリントの業績は著しく改善した」と述べている。子会社のヤフーが連結対象に加えたアスクルの収益が業績を押し上げ、アリババ株の売却益が最終増益に寄与している。

 国内通信事業は光回線の小売が好調で、売上ベースで約6%増。国内通信会社のソフトバンクで業績を伸ばした分野がMVNO(仮想通信事業者)の第2ブランド「ワイモバイル」だった。4~6月期のソフトバンクの契約回線純増数は11万件で前年同期比で5倍を超えたが、その増加分のかなりの部分がワイモバイルとみられる。テレビCMを打って販売攻勢をかけ、月額通信料1980円の低価格を武器に個人ユーザーを獲得している。

 ■政府の値下げ要請に応えても増収は続くと見込む

 2017年3月期の通期業績見通しは、NTT<9432>は営業収益0.8%減、営業利益6.1%増、税引前当期純利益6.1%増、最終当期純利益1.7%増の減収増益見通しを修正していない。10円増配して120円の予想年間配当も変わらない。減収の要因は為替の円高で約1400億円の減収要因になるとみている。移動通信は政府の値下げ要請に応えたが、増収は続くと見込んでいる。

 NTTドコモ<9437>は売上高2.1%増、営業利益16.2%増、税引前当期純利益17.5%増、最終当期純利益16.7%増の増収、2ケタ増益見通しを修正していない。10円増配の80円の予想年間配当も変わらない。政府から要請された携帯料金の値下げを受け入れ、6月に長期契約者を対象に割引を拡充して実質値下げしたが、データ通信を中心に通信収入が伸びて吸収。通期では増収になると見込んでいる。減価償却の定率法から定額法への変更による営業増益効果は通期で約500億円と見込んでいる。

 KDDI<9433>は売上高5.2%増。営業利益6.3%増、最終当期利益9.1%増の増収増益見通しを事実上、修正していない。前期の実績数値を少し手直ししたので前期比の増減率がわずかに変化している。10円増配して80円の予想年間配当も変わらない。

 ソフトバンクG<9984>の今期業績見通しは「現時点では業績に影響を与える未確定要素が多いため、業績予想を数字で示すのが困難な状況です」として非公表。3円増配して44円の年間配当予想は変更していない。

 7月に発表された英国の半導体設計大手アーム・ホールディングスの買収はビッグニュースだった。3.3兆円の超大型M&A。孫CEOは今後の自身の仕事の配分について「45%がスプリント、45%がアーム」と話している。国内通信事業は10%以下ということになり、権限の委譲を進めていく考え。(編集担当:寺尾淳)