【医薬品業界の4~6月期決算】4月の薬価改定で国内は苦戦。海外は円高がデメリットにもメリットにもなる

2016年08月09日 20:19

 8月3日、医薬品大手7社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。

 業績はまちまちで、武田は減収・3ケタ増益、アステラスは減収・2ケタ増益、第一三共は増収・2ケタ最終減益、田辺三菱は増収・2ケタ増益、大日本住友は増収・大幅増益、エーザイは減収・3ケタ増益、塩野義は2ケタ増収増益だった。

 共通しているのは、今年4月の薬価改定で特許切れ医薬品(長期収載品)の薬価が切り下げられた国内市場での苦戦で、武田がイスラエルのテバとの合弁会社に特許切れ医薬品事業を移管したり、塩野義が特許切れ医薬品21品目の共和薬品工業への売却を決めるなど、その対策が講じられている。

 為替の円高の影響については、他の輸出型業種と同様に海外であげた売上や利益が円ベースの業績数字で目減りする影響が出ているが、製薬大手は海外にも研究開発拠点があり海外でも治験を行っているので、海外でコストを支払う研究開発費や販売管理費が円高で安くなるというメリットも出ている。

 ■最終利益は2ケタ減益から3ケタ増益まで、まちまち

 4~6月期の実績は、武田薬品<4502>は売上収益は2.8%減、営業利益は208.6%増(約3倍)、税引前利益は207.2%増(約3倍)、四半期利益は294.6%増(約3.9倍)、最終四半期利益は304.9%増(約4倍)の減収、3ケタの大幅増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は113.0%で、1四半期終了時点で年間見通しを上回った。主力薬の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」が好調。後発薬の世界最大手、イスラエルのテバとの合弁会社の武田テバに特許切れ医薬品事業を移管したため、その事業譲渡益で利益項目が大幅増益になったものの、売上は減った。為替の円高で海外売上も円ベースで目減りしている。

 アステラス製薬<4503>は売上高1.7%減、営業利益50.0%増、税引前四半期利益37.7%増、四半期純利益49.3%増、最終四半期純利益49.3%増の減収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は33.8%。採算性が良い前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が約9%増で、過活動ぼうこう治療薬「ベシケア」も販売好調。国内の薬価改定と円高の影響で減収になったが、為替の悪影響がなければ約6%の増収だったという。一方、利益ベースでは外貨建ての研究開発費、販売管理費が目減りしたため、円高によるメリットが出ている。

 第一三共<4568>は売上収益1.1%増、営業利益3.8%減、税引前利益0.0%の微増、四半期利益11.7%減、最終四半期利益12.4%減の増収、最終2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は47.0%。国内は薬価改定がありながらも主力薬の糖尿病治療薬「テネリア」、抗凝固剤「リクシアナ」が伸びて9%の増収。抗凝固剤「エドキサバン」、貧血治療薬「インジェクタファー」の販売が伸びた北米市場は、現地通貨ベースの売上が前年同期比で約1%増だったが、円高で目減りし円ベースの売上は約10%減。全体の営業利益も為替要因で約54億円押し下げられて減益だった。試験研究費控除の減少に伴い税負担が増加したことによるコスト増、前年同期に工場売却益を計上した反動も影響している。

 田辺三菱製薬<4508>は売上収益6.9%増、営業利益15.9%増、税引前四半期利益18.9%増、四半期利益18.3%増、最終四半期利益18.4%増の増収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は38.4%。国内の医療用医薬品は想定通りに薬価改定の影響が出たが、糖尿病治療薬「カナグル」「テネリア」、関節リウマチ治療薬「シンポニー」が好調で、水痘(水ぼうそう)ワクチンも伸びて6%の増収。利益面では、前期に実施した早期退職制度のリストラ効果が出て人件費が縮小し、研究開発費も減少。海外の製薬会社に権利を譲渡した多発性硬化症治療薬「ジレニア」、糖尿病治療薬「インヴォカナ」のロイヤルティー収入の増加も寄与して2ケタ増益になった。

 大日本住友製薬<4506>は売上高5.5%増、営業利益227.7%増(約3.2倍)、経常利益168.4%増(約2.6倍)、四半期純利益40.8%増で、増収、大幅増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は33.4%。採算性が良い自社開発品の抗精神病薬「ラツーダ」が北米で、抗菌薬「メロペン」が中国で売上を伸ばした。4月の薬価改定で特許切れの医薬品を中心に国内売上は減収になったが、高血圧治療薬の「アイミクス」が健闘している。利益面では広告宣伝費が前期比で減少したこと、海外での販売管理費が円高の影響で減少したことなどが寄与し営業利益、経常利益は3ケタ増だった。

 エーザイ<4523>は売上収益1.7%減、営業利益239.1%増(約3.3倍)、税引前利益246.8%増(約3.4倍)、四半期利益278.9%増(約3.7倍)、最終四半期利益262.5%増(約3.6倍)で、減収ながら3ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は67.5%と高い。抗てんかん剤「フィコンパ」、抗がん剤「レンビマ」の販売は好調だったが、国内では4月の薬価改定が売上に影響した。円高で円建ての海外売上高も目減りして減収。大幅増益の要因は、味の素傘下の製薬子会社と統合して「負ののれん代」を利益として計上した一時的なもの。

 塩野義製薬<4507>は売上高14.6%増、営業利益43.9%増、経常利益14.3%増、四半期純利益29.8%増の2ケタ増収増益と好調な決算。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は17.6%。主力の戦略3品目、抗うつ剤「サインバルタ」、高脂血症治療薬「クレストール」、高血圧治療薬「イルベタン」の販売は国内でも好調。出資先の英国のヴィーブヘルスケアに製造・販売ライセンスを供与している抗HIV(エイズウイルス)薬「テビケイ」「トリーメク」のロイヤルティー収入は前年同期比61%増で、19%増だった研究開発費のコスト増をカバーして2ケタ増益に寄与している。