8月4日、自動車業界の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。8月1日付でトヨタの完全子会社になり、7月27日に上場廃止になったダイハツ工業は4~6月期決算を発表しなかったので、全部で7社。
4~6月期は、三菱自動車で4月に燃費データねつ造スキャンダルが発覚し、5月に日産・ルノーの傘下入りを発表。スズキでも燃費データのねつ造問題が発覚するなど、自動車業界にとって話題が多い四半期だった。
2016年度(4~3月)の国内新車販売台数(軽自動車含む)について、日本自動車工業会は3月に525万8000台という予測を発表しているが、これは2017年4月1日に予定されていた消費税率の10%への引き上げとその直前の駆け込み需要を織り込んだ数字である。その消費増税は安倍内閣が6月1日に先送りを発表したので、駆け込み需要も消えることになる。日本自動車工業会はまだ正式に修正を発表していないが、2016年度の国内新車販売台数は2015年度に続いて500万台を割り込む公算が大きくなっている。
国内の自動車販売は、税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の消費増税後の不振からなかなか回復できない。その原因については高齢化で自動車を運転しなくなる、若者層の自動車離れ、勤労者の可処分所得の低下、カーシェアリングの普及、2015年4月の軽自動車税の増税などいろいろ挙げられているが、三菱やスズキの燃費データ不正問題がメーカー不信を招き、販売をさらに冷え込ませる懸念も出てきている。
世界の自動車販売は今のところ北米は好調でヨーロッパもまずまずだが、資源価格の低下で新興国、途上国は概してふるわない。そこへ4~6月期、期中のドル円レートが121円から108円へ前年同期比で13円も、ユーロ円レートが134円から122円へ12円も円高に振れたため、日本の自動車メーカーの業績はその影響をもろに受けた。
たとえ輸出台数が増えても、現地生産、現地販売している海外法人の業績数字が伸びても、連結決算に際して日本円に換算すれば売上や利益が目減りする。輸入資材や、海外で支払う研究開発費や販促費用が円高で安くなっても「焼け石に水」のような状況だ。
日本車は今や、欧米の大都会からアフリカの砂漠の果てまで全地球的規模で売れている。自動車業界は2015年夏頃までは円安によるメリットをたっぷり受けられたが、今は逆に、円高によるデメリットを耐えしのばなくてはならなくなっている。4~6月期の各社の決算内容にも、通期業績見通しにも、その苦悩があらわれている。
増収はSUVが北米で納期待ちの人気の富士重工だけ。最終増益はインド事業が堅調なスズキだけ。トヨタ、日産、マツダは2ケタ減益で、三菱は燃費不正問題で多額の特別損失を計上し最終赤字に陥った。もっとも、全世界ベースで販売台数を減らしたのは燃費不正問題が起きた三菱、スズキと、三菱の問題のとばっちりを受けた日産の3社。それもスズキは2%減、日産は1%減にとどまり、16%減の三菱の「一人負け」だった。北米市場では採算性の良いSUVが依然よく売れていて、富士重工は9%も伸ばした。スズキもインドでは販売台数を約5%伸ばしている。
全世界ベースの販売台数はそれほど落ち込んでいないにもかかわらず、為替の円高による営業損益ベースの減益効果は7社トータルで5000億円近くに及び、それだけで前年同期の営業利益の約3分の1を吹き飛ばしている計算。自動車業界にとって為替の円高は、どんなに経営努力をしていても業績を自動的に悪化させる、恨めしい存在である。今はガマンの時期なのだろうか?
■売上増は富士重工だけ。最終増益はスズキだけ
2016年4~6月期の実績は、トヨタ<7203>は売上高5.7%減、営業利益15.0%減、税引前四半期純利益19.9%減、最終四半期純利益14.5%減の減収、2ケタ減益。4~6月期としては5年ぶりの減収減益だった。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は38.1%。ダイハツ工業、日野自動車を含めた第1四半期のグループ世界販売台数実績は252万9000台で1%増加したが、第1四半期の為替レートはドル円が108円で前年同期比で13円もの円高で、その影響で売上高は減少した。地域別では北米では販売台数が伸びなかったが、国内は「新型プリウス」の投入効果で伸びている。営業利益ベースでも円高は2350億円の押し下げ要因で、トヨタお得意の改善、原価の低減でもカバーしきれなかった。
日産<7201>は売上高8.4%減、営業利益9.2%減、経常利益8.2%減、四半期純利益10.7%減で減収、2ケタ最終減益と業績が悪化している。国内市場では三菱自動車の燃費不正問題を受けて三菱からOEM供給を受けている軽自動車「デイズ」の販売を停止した影響が出た。4~6月期の国内販売台数は前年同期比で25.4%の大幅減。北米は8.9%増でも世界販売台数は0.6%減で、国内の販売不振が全体の足を引っ張った。為替の影響については円高が新興国の通貨安と重なり、営業利益を912億円も押し下げている。
もっとも、最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は25.9%で、決して悪くはない。カルロス・ゴーン社長兼 CEOは「最近の為替変動による逆風や不安定な状況が続く新興市場の影響にもかかわらず、第1 四半期は大きな落ち込みはなく、比較的しっかりとした業績を達成しました」「北米を中心に販売が好調な主力モデルとコスト効率に焦点を当てた取り組みが基礎体力を押し上げたことによるもの」というコメントを発表している。
ホンダ<7267>は売上収益6.3%減、営業利益11.5%増、税引前利益2.2%増、四半期利益6.9%減、最終四半期利益6.1%減の減収、最終減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は44.7%もあった。
4~6月期のグループ四輪車世界販売台数は約121万3000台で、前年同期比で6%増。新型「シビック」の投入もあり販売は北米、アジアを中心に伸びている。中国市場ではシビックの売れ行きが期待以上で生産が追いつかない状態という。二輪車世界販売台数も6%増だったが、為替のドル円が前年同期から13円も円高に振れては海外売上の円ベースでの目減り、減収は避けられず、円高は4010億円もの減収要因になった。
それでも営業利益ベースでは、販売台数増が451億円の増益要因、コスト削減効果が457億円の増益要因で、タカタ製エアバッグのリコール費用の負担も前期までで終わっている。それらによって復旧費用など約100億円にのぼる熊本地震の影響も、円高による減益要因758億円も吸収できているという。最終利益は前年同期よりも税負担が増加したために減益になった。