エネルギー利用において持続可能な社会を実現するためには、再生可能エネルギーの利用とエネルギーの消費削減が要求されている。エネルギー消費に関して、現在はSi(シリコン)半導体を用いた反転層チャネルMOSFETやIGBTといったパワーデバイスが自動車や新幹線、飛行機、工業機器、医療機器など広く利用されている。しかし、Si半導体はその物性値から性能限界が近づいているという。そこで注目されているのがSiC(シリコンカーバイド)半導体、GaN(窒化ガリウム)半導体といったワイドバンドギャップ半導体。ワイドバンドギャップ半導体は、熱伝導率や絶縁破壊電界などがSi半導体よりも優れるため、大幅な省エネルギー化が可能な次世代パワーデバイス材料として期待されている。
ダイヤモンド半導体はそれらの次世代パワーデバイス材料よりも、さらに高い熱伝導率(Siの14倍)や絶縁破壊電界(Siの100倍)を有しているため、特に大きな電圧や電流が必要な領域での省エネルギー化につながると期待されている。また、反転層チャネルMOSFETは、低消費電力化に必要不可欠な電圧制御素子であり、OFFのときに電流が流れないノーマリーオフ特性を基本的に有しているため、信頼性が高く、Si半導体で広く普及している。しかし、ダイヤモンド半導体ではプロセスの難しさから反転層チャネルMOSFETの基本構造である良好なMOS構造を形成することが困難であるという課題があった。
これを受け、金沢大学理工研究域電子情報学系の松本翼助教、徳田規夫准教授らの研究グループ(薄膜電子工学研究室)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイス研究チームの山崎聡招へい研究員、加藤宙光主任研究員、デンソーの小山和博担当課長らとの共同研究により、世界で初めてダイヤモンド半導体を用いた反転層チャネルMOSFETを作製し、その動作実証に成功した。
研究では、マイクロ波プラズマ化学気相成長法によるn型ダイヤモンド半導体の高品質化、ウェットアニールによる酸化膜およびダイヤモンド界面の高品質化によって、反転層チャネルダイヤモンドMOSFETを作製し、その動作実証に世界で初めて成功した。
作製したMOSFETの動作を調べると、ゲート電圧をかけていないときにはゲート電流もドレイン電流も検出限界以下(ノーマリーオフ特性)であり、ゲートにかける負電圧を大きくしていくと、MOS界面のn型ダイヤモンド半導体に空乏層が広がり、さらに負電圧を大きくすると少数キャリアである正孔がドレイン・ソース領域から流れ込むことで反転層チャネルが形成され、ドレイン電流が流れることを明らかにした。その結果、ドレイン電流の理想的な飽和特性、高いon/off比を確認した。
今後は、応用に必要な大電流化と高耐圧化を図るために、MOS界面のさらなる高品質化による移動度の向上、ドレイン領域に耐圧層の導入が必要だが、近い将来、日本発のダイヤモンドパワーエレクトロニクス産業の創出にも貢献するとしている。(編集担当:慶尾六郎)