マイタケがインフルエンザウイルスの増殖を抑制する?

2016年08月29日 08:12

 理化学研究所(理研)小林脂質生物学研究室の小林俊秀主任研究員(研究当時)、牧野麻美特別研究員(研究当時)、阿部充宏専任研究員(研究当時)、石塚玲子専任研究員(研究当時)、村手源英研究員(研究当時)、岸本拓磨基礎科学特別研究員(研究当時)らの国際共同研究グループは、食用キノコのマイタケに脂質ラフトと呼ばれる動物細胞膜上の脂質構造に結合するタンパク質を発見し「ナカノリ」と名付けた。また、ナカノリの存在下ではインフルエンザウイルスの増殖が抑えられることを明らかにした。

 国際共同研究グループは、まず、動物細胞の主要なスフィンゴ脂質であるスフィンゴミエリンとコレステロールを用いて人工的な脂質ラフトを作製し、さまざまな細胞(キノコではマイタケ、エリンギ、シイタケ、マツタケ、ブナシメジ)の抽出液を用いて結合タンパク質をスクリーニングした。その結果、マイタケ抽出液からアミノ酸202個からなる新しいタンパク質を発見した。そして、このタンパク質がスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体にのみ結合し、他の脂質、タンパク質とは結合しないことが明らかになったという。

 スフィンゴミエリンとコレステロールの複合体は、脂質ラフトの基本構造だと考えられている。脂質ラフトに特異的に結合することから、国際共同研究グループは、このタンパク質を「ナカノリ(木曽の中乗り、筏乗りの意)」と名付けた。X線回折法および核磁気共鳴(NMR)法による構造解析の結果、ナカノリはアミノ酸配列の類似性のないイソギンチャク由来のスフィンゴミエリン結合毒素(スチコライシン)と同様の立体構造をとっていることがわかった。しかしナカノリは、毒性に関わるアミノ末端に余分なアミノ酸が結合しているため、スチコライシンのような細胞毒性を示さないことも判明した。

 続いて、ナカノリを用いて動物細胞での脂質ラフトの分布、動態、機能の解析を行った。その結果、情報伝達に関わる低分子量Gタンパク質が活性に応じて脂質ラフトに存在すること、また細胞分裂や膜の変形に関わるホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸が脂質ラフトに局在することなどが明らかになった。

 また、インフルエンザウイルス、エイズウイルスなどは、脂質ラフトを感染の場としていると考えられているという。国際共同研究グループは超解像顕微鏡を用いて、培養したMDCK細胞[10]からインフルエンザウイルスが出芽する様子を観察しました。その結果、ウイルスはナカノリで標識される脂質ラフトの縁から出芽してくることが明らかになった。

 さらに、高濃度のナカノリの存在下ではMDCK細胞のインフルエンザウイルス感染が抑えられることがわかった。感染細胞にナカノリを加えるタイミングを変えて調べたところ、ナカノリはウイルス感染の後期、つまりウイルスの出芽の段階を阻害していることが示された。

 ナカノリの脂質結合部位を特定するなど、さらに解析が進めば、より小分子量の抗ウイルス薬の設計につながると期待できるという。脂質ラフトはインフルエンザばかりでなく、エイズウイルスやエボラウイルスの感染においても重要な役割を果たしていると考えられる。共同研究グループは今後、これらのウイルス感染にもナカノリが効果を示すのかなど、研究を進める予定であるという。(編集担当:慶尾六郎)