今度こそ本当に生える? 京セラらが再生医療「毛包器官再生による脱毛症の治療」に関する共同研究を開始

2016年07月14日 07:49

 脱毛症は、男性型脱毛症をはじめ、先天性脱毛や瘢痕(はんこん) ・ 熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などが知られ、現在、日本全国で1,800万人以上(出典:男性型脱毛症診療ガイドライン2010 年版)の患者が存在すると言われている。育毛剤や脱毛阻害薬、自家単毛包移植術など、幅広い治療が行われており、大きなマーケットを有している。

 しかし、これらの治療技術は全ての症例に有効ではなく、自家単毛包移植術による外科的処置によっても毛包の数を増加させることはできない。そのため脱毛症に対する毛包再生医療の開発に大きな期待が寄せられている。

 今回、京セラ<6971>、国立研究開発法人理化学研究所およびオーガンテクノロジーズは、再生医療分野である「毛包器官再生による脱毛症の治療」に関する共同研究契約を締結し、今後、毛包器官を再生して脱毛症を治療する技術や製品の開発を共同で実施することとした。

 理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームは、これまで歯や毛包、分泌腺(唾液腺、涙腺)など幅広い種類の器官再生が機能的に可能であることを実証してきた。 ほとんどの器官形成は胎児期に起こるため、器官再生のための幹細胞は胎児組織から採取する必要がある。

  一方、器官の中では唯一、毛包は出生後に再生(毛周期)を繰り返す器官であることが知られている。研究チームは2012年、成体マウスのひげや体毛の毛包器官から、バルジ領域に存在する上皮性幹細胞と、間葉性幹細胞である毛乳頭細胞 を分離し、開発した「器官原基法」により毛包原基を再生する技術を開発した。

 この再生毛包原基を毛のないヌードマウスに移植すると、再生毛包へと成長し、毛幹(毛)を再生できることを実証した。再生毛包原基移植による器官再生は、周囲組織である立毛筋や神経と接続するとともに、正常と同様の毛周期を繰り返すなど、機能的な器官を再生することが可能。また色素性幹細胞を組み込むことにより毛髪の色を制御できるほか、再生毛包原基が再生する毛包器官の数を制御することも可能であることから、脱毛症に対する審美治療への応用可能性が示されているという。

 さらに、研究チームは、iPS細胞から毛包器官や皮脂腺、皮膚組織を丸ごと含んだ機能的な皮膚器官系の再生にも成功しており、器官再生では世界をリードする技術を有しているという。

 そして、これらの最先端の毛包再生技術をヒトの脱毛症治療へと展開するため、今後、京セラと理研、オーガンテクノロジーズの三者が協力し、ヒトへの臨床応用に向けた共同研究を実施する。共同研究では、細胞培養技術や移植技術の確立、および移植に向けた機器開発を進め、2020年の実用化を目指す。

 毛包再生医療は、患者自身の毛包から幹細胞を採取して加工し、移植する自家移植が中心となる。最も患者の数が多い男性型脱毛症では、医療機関にて、少数の毛包を採取し、受託製造会社はその毛包から幹細胞を分離して、培養、増幅し、器官原基法により再生毛包原基を製造する。この再生毛包原基をパッケージして医療機関へと搬送し、医療機関において患者に再生毛包原基を移植治療することになる。(編集担当:慶尾六郎)