トヨタ、災害時通信インフラにクルマを活用

2016年09月27日 09:31

 クルマの通信によってドライブだけでなく、社会の安全性・快適性が増す。2016年9月8日に開催された「自動車未来サミット/モビリティーNEXT 2016」において、トヨタIT開発センターが示した試みはクルマを通信インフラに取り込むというものだ。この試みが実現すれば、災害などで通信インフラがダウンしても、クルマの無線通信機能活用で情報を集めることが可能だ。被災者のメールや安否情報などのデータを蓄えたクルマが物理的に基地局の近くに移動し、情報を届ける。用いられる通信規格は、Wi-Fiなどの近距離無線通信、あるいは使われていない周波数の電波(ホワイトスペース)を活用したものが想定されている。これらの通信規格を用いることで大容量のデータの送信が可能になる。また、通信機器の設置が不要となることからコスト面でも分がある。クルマを通信インフラとすることで、トンネルや橋などの超音波探傷センサーからのデータ回収に、通ったクルマが利用でき低コストでの保守点検が可能となる。用いられるセンサーではコイン電池1個で10年程度の稼働が可能だとのこと。

 クルマによる通信規格は、これまでLTE基地局と車両間のリアルタイム通信やLTEによる車車間通信を想定してきた。通信の目的は周辺のクルマの位置やスピード、障害物等を把握し安全で快適なドライブに反映させるためだ。しかし15年にドイツにて実施されたLTE基地局と車両間のリアルタイム通信の実証実験では、自動車向け無線通信に要求される遅延時間である約1ミリ秒をオーバーし、約20ミリ秒という結果が出ている。

 通信事業者のネットワークに依存しない通信手段では、クアルコムが提唱するLTE V2Vがある。同通信手段では、車車間通信をLTEによる高速端末間通信「LTE Direct」によって実現するものだ。ボルボやBMWでもLTEを用いた車車間通信の実現に向けて積極的に実験を進めている。車車間通信が実現することで、例えば路面の状況などの情報を近くのクルマに送信できる。また、ボルボでは、アプリによってサイクリストの位置をドライバーに知らせ、クルマの接近をヘルメットのライトによってサイクリストに知らせる仕組みも開発している。

 自動運転の実用化以前にも通信するクルマによって実現できることは多いが、新たに5Gの普及も見込まれているなか通信規格の統一が大きな課題だ。(編集担当:久保田雄城)