思うだけで機器を操作できるBMIには多くの期待が寄せられているが、現状の技術では性能が限定されており、体で操作する方法と比べて、健常者にとっての優位性が明らかではなかった。今回、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の山川義徳 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、国際電気通信基礎技術研究所の石黒浩氏、西尾修一氏らのグループはアンドロイドをBMIを介して脳により操作した場合と、体により操作した場合の反応を比べる実験を行い、脳により操作した方が、アンドロイドに対しより強く適応できることを実証した。
今回、研究グループはアンドロイドを対象として、脳波によるBMIで操作した場合と、体により操作した場合とで比較する実験を行った。この際、体による操作にはモーションキャプチャ装置を用いて、操作者の体の動きにあわせてアンドロイドが動くようにしている。一定時間の操作を行った後、アンドロイドをどの程度自分の身体と感じたかを主観評価(アンケート)によって問うとともに、客観評価としてアンドロイドへ刺激を加えた時の皮膚コンダクタンス反応を測定した。実験の結果、主観評価、客観評価のいずれでも、体により操作した場合と比べ、BMIを介して脳により操作した場合に、アンドロイドをより強く自分の体として感じられることがわかったという。
特に今回のように脳波を用いるBMIでは、操作者の意図を識別するための脳波データを蓄積するために、動きを想像してから実際にアンドロイドが動くまでに遅延が生じる。今回の実験では体による操作と比べて、BMIを介した脳による操作では0.5秒程度の遅延が生じている。このような遅延がある場合、一般に操作感は失われ、また操作対象との一体感も阻害される。
このような遅延があるにもかかわらず、低遅延のモーションキャプチャによる操作よりもアンドロイドとの一体感が強く感じられた理由は、BMIを介した脳による操作時には、運動を意図するだけで実際には体が動いていないことが良い方向に働いたと考えられるという。すなわち、体による操作では自分本来の体が動き、姿勢の変化などが感じられるが、その姿勢変化とロボットの動きとの間でギャップが生じるため、一体感が損なわれるのに対し、姿勢変化を必要としないBMIを介した脳による操作では遅延が大きくともギャップが生じず、意図通りにロボットが動く様子を見ることで強い一体感が生じたと考えられるとしている。
アンドロイドとの一体感の向上とBMIによる操作性能との間には相関があることから、一体感を向上させることでBMIの操作性能をより向上させるなど、人の脳の制御性を高められる可能性があるという。この脳の制御性の向上は、アンドロイドに限らず、多様な機器の遠隔操作で効果があると考えられる。将来、よりロボットの体を自由に操作できるインタフェースを実現できれば、映画のようにロボットを自分の分身として使う世界が実現される可能性もあるとしている。今後、アンドロイドからのフィードバックの性質と、これを効果的に強化する手法の探索をさらに進めることで、脳の制御性を高める手法の開発と応用に向けた研究を進めていく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)