困難に挑戦する技術、人に近づくロボット

2013年02月11日 16:02

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MEMSジャイロセンサーや傾斜センサー、およびそれらセンサーを用いた倒立振子制御技術など、「止まっても倒れない技術」が組み込まれたムラタセイサク君。(写真はCEATEC Japan 2011にて)

  ロボットとひと口に言っても、様々な用途と形態がある。工場などで働く産業ロボット、私たちの生活を便利にサポートしてくれるサービスロボット、そして医療や介護の現場で活躍するロボットなど。いつの間にか、ロボットは我々の営みに欠かせない存在となりつつある。とはいえ、まだまだ発展途上の分野であることも否めない。

  例えば、日本は産業ロボットの分野においては出荷台数も使用台数も世界一を誇る産業ロボット大国といわれているが、意外なことに、これまで精密部品の組み立て作業での自動化は困難とされてきた。産業ロボットは、1977年頃から工場の生産ラインに導入され活躍してきたが、エンジンやクラッチなどの自動車部品、金型、電子部品などの精密な組み立て作業のほとんどは、その複雑さや要求精度の高さから、技術者の手作業に頼っていたのである。

  精密部品の組み立てにおいて、大切なのは視覚ではなく手先から伝わる触覚であるといわれている。技術者は手先に伝わるわずかな反力を感じながら組み付け位置を探り、組み立て作業を行なっていく。この作業をロボットで高精度・高速に再現できれば、作業効率が大幅にアップするのは分かってはいても、この「熟練の技」の微妙な感覚をロボットに感知させるのは至難の業だった。

  ところが、2013年1月15日、産業ロボット業界で世界トップのシェアを誇る安川電機 が、同社の産業用ロボット「MOTOMAN(モートマン)」向けのオプション製品として、6軸力センサーユニット「MotoFit(モートフィット)」を開発したと発表したのだ。また、同社ではMotoFitを搭載することで、すき間10μm(交差h7/H7)・深さ20mmの円柱形状の金属部品のはめ合いを、わずか5秒で行うことができるとし、高精度高精細、業界最速をうたっており、精密作業の自動化が実現するだけでなく、生産ラインの自動化・効率化まで図れるという。

  そして、日進月歩で進化しているロボットは、何も産業ロボットだけではない。昨年9月には、自転車型ロボット・ムラタセイサク君でお馴染みの村田製作所と、大阪堺市に本社を持つ福祉用具のパイオニア・幸和製作所が協業し、電動歩行アシストカー「KeePace(キーパス)」を発表している。

  KeePaceは、ムラタセイサク君に搭載されている「止まっても倒れない技術」、MEMSジャイロセンサーや傾斜センサー、およびそれらセンサーを用いた倒立振子制御技術などが組み込まれており、高齢者や足腰の不自由な方の歩行サポートを行なう目的で開発されたものだ。

  もともとは、11年10月に開催された「CEATEC Japan 2011」において村田製作所<6981>が発表した電動歩行アシストカーのコンセプトモデルがベースとなっているが、KeePaceは、そのアシスト制御システムが進化し、坂道での歩行サポートや旋回機能を強化されている。さらに、駆動機構や制御機器の設計が見直され、最適化が図られ、小型化にも成功している。

  KeePace自体は、厳密にはロボットと呼べるものではないかもしれないが、ロボット技術を応用したものであることは間違いない。KeePaceのようにロボット開発から派生した技術を応用したソリューションは、今後も続々と現れてくることだろう。

  安川電機の「MotoFit」や、ムラタセイサク君の「止まっても倒れない技術」など、ロボット開発者たちの困難に挑戦する姿勢が、私たちの未来をより豊かに、より便利に変えてくれるのだ。(編集担当:藤原伊織)