歯はヒトの食生活を営む上できわめて重要な役割を持つ。つまり、歯が破壊されたり、抜けたりするとヒトは何も食べることができなる。ヒトの歯の最外層はエナメル質という構造で守られており、体の中で最も硬い組織。骨や軟骨などの硬組織と異なり、歯のエナメル質は皮膚の上皮細胞や毛や爪と同じ歯原性上皮細胞とよばれる上皮細胞によって形成される。また、歯の生える場所に応じて変化する歯の歯冠や歯根のかたちは、この歯原性上皮細胞が制御している。
国立大学法人東北大学は、歯の発生やかたちの制御に関わる分子の役割を解明する過程で、エナメル質の形成のマスター遺伝子の同定と機能解析に成功し、どのように歯のエナメルが作られ、また、歯のかたちを制御しているのかを明らかにした。この研究は東北大学歯学研究科歯科薬理学分野の中村卓史准教授、小児発達歯科学分野の福本敏教授らと、米国国立衛生研究所との共同研究による成果である。
研究では、転写因子の1つであるエピプロフィンをマウスの全身の上皮細胞に発現するような遺伝子操作したマウス(K5-Epfnマウス)を作製し解析した。そのマウスの歯を解析してみると、野生型(通常のマウス)ではエナメル質を形成しない場所にエナメル質を形成していることが明らかとなった。
また、K5-Epfnマウスの臼歯は、歯のかみ合わせの咬頭や歯根などの歯のかたちにも異常が認められたという。この原因は、エピプロフィンが歯の発生過程において上皮間葉組織間で組織間で展開される相互作用に、増殖因子FGF9やSHHの発現を誘導することにより介入し、歯の象牙質形成に関与する歯原性間葉細胞の増殖を促進させる事であることが明らかとなったとしている。
これにより、次世代のむし歯の治療や歯の再生への応用が期待されるとしている。期待したい。(編集担当:慶尾六郎)