京都大iPS細胞研究所(所長は山中伸弥教授)に所属する長船健二准教授らが、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から腎臓の細胞を作り出すことに成功した。iPS細胞はあらゆる細胞に成長でき、既に神経や心筋、網膜、肝臓などの細胞は作製済みだが、腎臓は他の臓器と比べて構造が複雑で再現は比較的困難とされており、腎臓再生の為の大きな第一歩と言える。これらの研究は世界初の快挙となり、英科学誌・ネイチャー・―コミュニケーションズにも掲載された。
研究グループは、iPS細胞を効率よく中間中胚葉へと変化させる技術開発に着手。iPS細胞の変化にかかわる様々な物質の中から、骨の成長を促すたんぱく質など4種類を加えることで、iPS細胞の90%以上を腎臓などの泌尿器系の臓器に分化する前段階の「中間中胚葉」に変化させることに成功した。さらに、尿細管など腎臓立体構造を再現できることも明らかにしている。
腎臓は尿を作り、老廃物の排せつなどを行う臓器だが、腎臓の機能が悪化すると人工透析になるケースもある。わが国の人工透析者は数年々増加し、2011年の調べによると304,592人で初めて3万人を突破。人工透析にかかる医療費は、患者1人当り年間約500万円かかり年間約1兆5000億円にも達している。腎臓の再生医療が実現すれば、透析患者の身体的な負担や精神的不安の軽減はもちろん、国単位としても経済的な効果も大きいと言えるだろう。
また慶応義塾大学の大山学専任講師と岡野栄之教授らは、iPS細胞から毛を作り出す「毛包」と呼ぶ組織の一部を再生することに成功している。そもそも脱毛症の原因は、外傷などによる損傷とされており現在進行した脱毛症を治すには、自分の毛包を採取して植え直すなどの方法があるが、数に限界があった。研究チームは、iPS細胞から毛包を形づくる細胞「ケラチノサイト」になる手前の前駆細胞を育成。毛の作製を促すマウスの細胞と混ぜ、マウスの背中の皮下に移植したところ、2~3週間で毛包の一部が体内で再生した。正常な毛包は何度でも毛を作るため、脱毛症の治療に期待ができそうだ。
様々な分野で可能性を広げるiPS細胞。今後も多くの患者に希望を与えてくれることは間違いなさそうだ。(編集担当:野口奈巳江)