デフレ経済の特徴としてよく言われてきたのは「内向き消費」。外食をせず家の中で食べる。連休でも遠出はせずにカラオケなど近場のレジャーで済ませる。「スマホ、ソーシャルゲームにお金を使ってしまうから、近頃の若者は洋服を買わないし旅行にも行かない」と嘆く声もけっこう聞かれた。それなら情報・通信やゲーム関連の企業は空前の好業績だったかというと、必ずしもそうではないようだ。
情報・通信のNTT<9432>は、営業収益は1.8%増の7兆9217億円、営業利益は1.6%減の9932億円、純利益は24.5%増の4473億円。データ通信の海外売上高が伸びても地域通信事業は「フレッツ光」の先行きに不安がある。大きく影響したのはNTTドコモのモバイル端末で、販売台数は伸びても「iPhone」が武器の他社の侵食を食い止めるための販促費がかさんだ。繰り延べ税金資産を取り崩した前期の反動で純利益増。営業収益増、営業利益減、純利益増の通期業績見通しも、年間配当見通しも据え置いている。
ゲームのDeNA<2432>は、売上収益は44.9%増の1502億円、営業利益は37.4%増の586億円、純利益は54.0%増の334億円。海外事業はまだ赤字だが、国内の「モバゲー」課金収入は「ガンダムカードコレクション」などヒット作にも恵まれ、昨春の「コンプガチャ課金問題」の影響もほとんどなく快調な決算。通期業績見通しは、売上収益を594億円、営業利益を182億円、純利益を136億円、それぞれ上方修正する。年間配当金は50円で、前期より14円上積みする見通し。
コナミ<9766>は、売上高及び営業収入は17.7%減の1601億円、営業利益は51.7%減の149億円、純利益は48.3%減の88億円。ソーシャルコンテンツの立ち上げの遅れ、パチンコ・パチスロの主力タイトルの発売延期など「出遅れ」の問題に加え、ヨーロッパなど海外の景気減速の影響をもろに受けた。通期業績見通しは、売上高及び営業収入は420億円、営業利益は181億円、純利益は96億円、それぞれ下方修正する。大幅減益でも年間配当見通しは50円で据え置いた。
小売業の三越伊勢丹HD<3099>は、売上高は1.4%減の9196億円、営業利益は2.8%減の241億円、純利益は68.7%減の175億円。伊勢丹新宿本店の改装工事による減収があり、靴など自主企画商品の好調さで補えなかった。阪急うめだ本店の新装開業の影響を受けるJR大阪三越伊勢丹の業績不振も純利益を押し下げている。減収減益の通期業績見通し、年間配当見通しは据え置いた。
ヤマダ電機<9831>は、売上高は13.9%減の1兆2314億円、営業利益は61.6%減の347億円、純利益は48.5%減の293億円。前年の地デジ特需の反動による薄型テレビの低迷が長引き、タブレット端末や省エネ型の洗濯機、エアコンの販売増ではカバーできなかった。減収減益の通期業績見通し、年間配当見通しは据え置いた。
セコム<9735>は、売上高は12.9%増の5473億円、営業利益は6.2%増の786億円、純利益は15.0%増の483億円。セキュリティサービス事業が好調に推移し、連結子会社に加わった火災報知器・警報器メーカーのニッタンの売上増、不動産開発・販売事業の大型マンションの引渡し開始も寄与した。増収増益の通期業績見通し、100円の年間配当見通しは据え置いた。
花王<4452>は決算期を3月期から変更しての2012年12月期本決算(9ヶ月)。売上高は1兆125億円、営業利益は1015億円、純利益は623億円。年間配当金は62円だった。サニタリー製品などヒューマンヘルスケア事業、ファブリック&ホームケア事業が増収になり、天然油脂や石化原料など原材料価格の低下、コストダウン、費用効率化が収益力を向上させている。2013年12月期の通期業績見通しは、売上高は1兆2700億円、営業利益は1160億円、純利益は730億円で、前々期と比べて全て増収増益。年間配当も2円上積みして64円とする見通しである。
大日本印刷<7912>は、売上高は4.2%減の1兆882億円、営業利益は7.0%増の244億円、純利益は約2.4倍の98億円。収益は生活・産業部門は減収だったが情報コミュニケーション部門は大きく改善。エレクトロニクス部門は大型パネル向けカラーフィルターの需要減で23%減収となったが、スマホ、タブレット向け中・小型製品の販売が増えて赤字が縮小している。増収増益の通期業績見通し、年間配当は据え置き。
JAL<9201>は、売上高は3.6%増の9420億円、営業利益は2.2%減の1581億円、純利益は3.7%減の1406億円。LCCの就航が相次いでも北米の景気拡大で国際線のビジネス旅客は好調で、運航停止中のボーイング787は7機しかなく影響は限定的。それでも燃料コストの増加、人件費の増加でコストがかさみ減益になった。通期業績見通しは、売上高は100億円、営業利益は100億円、純利益は120億円、それぞれ上方修正する。年間配当見通しは180円で普通配当では8年ぶりの復配を果たす予定。
エネルギーのJXホールディングス<5020>は、売上高は3.4%増の8兆545億円、営業利益は42.4%減の1350億円、純利益は42.1%減の919億円。震災復興需要、原発の長期停止に伴う原油などの需要増はあったが、円安でエネルギーのドル建て輸入価格が上昇しために大幅減益になった。通期業績見通しは、売上高は800億円、営業利益は500億円、純利益は300億円、それぞれ上方修正する。1~3月期の想定為替レートを80円から85円に改めたことで、会計上、大量に備蓄する在庫の評価額がマイナスから450億円のプラスに変わることがその要因。それでも最終利益はマイナスで、年間配当は据え置き。
DeNAとコナミのように、同じ業種の中でもすでに春が来ている企業と、じっと春が来るのを待っている企業がある。アベノミクスの効果が個人所得の増加にまで波及し、個人消費が上向きになるまでには時間がかかりそうだが、消費のマインドは、国民が「先行きは明るい」と感じるだけで好転するもの。皇室や芸能・スポーツのハッピーな出来事や何かの大ブーム到来、画期的な新技術やヒット商品の出現をきっかけに個人消費に火がついたことは、過去に何度もあった。今回はそれが単なる需要の先食いに過ぎない「消費税増税前の駆け込み需要」だけで終わらないことを祈りたい。(編集担当:寺尾淳)