表情や声を定量的に分析 AIがうつ病や認知症を診断へ

2016年11月30日 08:49

画.表情や声を定量的に分析 AIか_うつ病や認知症を診断へ

疾患の判定にAIを活用する研究「PROMPT」が慶應義塾大学精神・神経科学教室を中心に進められている

 精神医療の分野では客観的な指標の作成が困難なことから、現状において疾患の診断や治療方針の決定の際は医師の主観に頼らざるを得ない。患者の自己申告や心理査定、医師による観察を通して重症度を評価するしか方法はなく、条件をいくつか満たすことでうつ病や認知症、双極性障害といった疾患の診断がなされる。そこには診断者の主観や、診察時の患者の気分といった要素が介在するため、同じ症状でも診る医者によって病名が変わったり、患者の状態によって医師による線引きが変わったりといったことが起こる。治療方針の決定や投薬についても主治医の感覚を頼りに行われており、最適な治療が行えているかは主治医自体も判断できない。こうした感覚的、属人的になりがちな精神医療において客観性を持たせるべく、疾患の判定にAIを活用する研究「PROMPT(Project for Objective Measures Using Computational Psychiatry)」が慶應義塾大学精神・神経科学教室を中心に進められている。同研究では、診察時の患者の表情や声、話の内容などをカメラやマイクで収集。各精神疾患の特徴、重症度、再発パターンを反映する指標を機械学習により見出し、精神疾患の診断・治療を支援するシステムを開発する。

 定量的なデータから精神疾患を診断する研究はこれまでも行われてきており、患者の声や話の内容、活動量から、うつ病などを80~90%の精度で判定できることがわかっている。今回の研究では映像データ、音声データなどからのより総合的な解析を通して、診断や治療に役立てていく。患者の表情の分析にはオムロンの画像センシング技術「OKAO Vision」を活用し、患者表情や視線の変化、まばたきのパターンなどを定量化して分析する。声の分析では声量や語彙数、会話速度、指示語などの特徴を分析する。これらの情報をマイクロソフトのAI技術により統合的に解析する。また、ウェアラブルデバイスにて患者の日常の活動量や睡眠のデータも解析に取り込む予定。

 精神医療分野でのAI活用については、大塚製薬と日本IBMの共同出資会社「大塚デジタルヘルス」が6月に設立され、精神科病院の電子カルテを日本IBMの「ワトソン」にて分析。診断や治療に有効な情報を提供する精神科治療支援ソフトを展開する。観察や傾聴における長年の経験やセンスが要求される精神疾患の診断においても、AIが熟練医の診断精度を超える可能性は十分あると考えられ、AIによる診断の実用化によるより効果的な精神医療の提供が期待される。(編集担当:久保田雄城)