アルコール依存症の増加で問われる、企業の姿勢

2016年09月17日 19:42

画・お酒はコントロールできる? 50代から意識が高まる適量飲酒 

なぜアルコール依存症になってしまうのか。ビールや日本酒など、酒は嗜好品としてのイメージが強いが、主成分のひとつであるアルコールはそもそも、高い依存性をもつ薬物だ。

 2013年に厚生労働省が発表した問題飲酒者に関する人口推計によると、アルコール依存症者及びその予備軍は男性が257万人、女性37万人、計294万人にものぼる。

 なぜアルコール依存症になってしまうのか。ビールや日本酒など、酒は嗜好品としてのイメージが強いが、主成分のひとつであるアルコールはそもそも、高い依存性をもつ薬物だ。飲酒が習慣化すれば、誰でもアルコール依存症になるリスクをはらんでいる。依存症になると、飲酒欲求の抑制がきかなくなり、飲んではいけない状況下でも酒を飲んでしまったり、量的にも、酔いつぶれるまで歯止めが利かなくなったりしてしまう。このような症状は本人の意志や性格などとは関わりなく起こってしまうので、アルコール依存症に陥った場合には専門治療と援助、自助グループへの参加など、周囲からの介入が必要となる場合が多い。ただし、それらの治療によって回復と社会復帰が可能な病気でもある。

 ところが、厚生労働省の患者調査によると、アルコール依存症の受診患者数は4万人超。前述の厚生労働省が発表した人数と比べると、それだけで受信する人が少ないことが判る。アルコール依存症に対する誤解や偏見が受診や治療、介入を阻んでいると考えられる。女性と高齢者のアルコール依存症が増えているといわれる今、これまでよりもさらに、家族や社会の理解が必要となるだろう。

 また、飲酒の目的の一つに「ストレス解消」がある。飲酒することで気分が高揚し、気分が晴れたという経験を持つ人は多いだろう。仕事や人間関係のストレスを、飲酒でごまかす。しかし、このようなことを繰り返しているうちに依存症に陥ってしまうケースは非常にに多い。40~50代男性の3割以上が飲酒問題を抱えているという調査報告もある。また逆に、アルコール依存症者の3割がうつ病を合併しているという研究報告もあることから、うつ病とアルコール依存症にも深い因果関係があると考えて間違いないだろう。

 仕事や職場のストレスを解消するために酒を飲む。適度であれば明日への活力にもなるが、度を越えて依存症になれば、企業にとっては貴重な人材を損失する大きなリスクとなる。現代社会はストレス社会などといわれるが、ストレスを感じない職場づくりは、先進社会の企業としての姿勢を問う物差しになるのではないだろうか。

 例えば、社員が快適に、または前向きに仕事ができる環境を提供している企業としては、オムロンの取り組みなどが面白い。同社は、日本を代表する電子部品及びヘルスケア製品等を展開するメーカーだが、高齢化社会で働く社員のストレス軽減のため、介護をしながらでも安心して働ける職場づくりを推進している。社員向けに「仕事と介護の両立支援セミナー」を開催したり、オンラインシステムを介して、公的介護保険制度の仕組みや両立支援制度に関する情報の提供を行っているほか、専門家による365日24時間体制の相談窓口を設けている。

 ミツバチ産品の製造販売で知られる山田養蜂場では、従業員一人ひとりの活躍に光をあて、互いを尊重し合える組織になるために、社員一人ひとりの推薦による表彰制度を設けている。成果や業績だけでなく、普段の業務姿勢などが大きく評価されることで社員のやる気が大きく向上するようだ。

 また、スウェーデン発祥の世界最大の家具量販店イケアにはユニークな人事制度があり、従業員が自分の仕事に飽きたり、別の仕事をしてみたいと思ったら、自分の意思で新しい職場に移動することができる。合わない仕事で我慢しなくても、退職せずに職場を移動できるという制度があるだけでも、ストレスは大幅に軽減されるはずだ。

 女性の社会進出が進むにつれ、女性のアルコール依存症者も増えている。これらは決して偶然の一致ではないだろう。アルコールの飲み過ぎによる社会的損失は年間4兆1483億円に達するという。企業にとっても日本経済にとっても、ストレスを溜め込まない職場づくりは今後ますます欠かせない課題となるだろう。(編集担当:藤原伊織)