がん治療に大きな期待。京都でSiCを活用した中性子捕捉療法の機器開発始まる

2016年12月10日 21:29

ローム1207

京都府・ローム株式会社・京都府立医科大学・福島SiC応用技研株式会社の 4者は11月22日、SiC-BNCT機器の共同研究開発及び研究センターの整備について基本合意した。

 需要拡大が著しい次世代パワー半導体の世界市場。その一翼を担うSiC(シリコンカーバイド)。富士経済の調査によるとSiCパワー半導体の世界市場は2015年度で178億円。2020年度には、およそ4.8倍となる850億円にまで拡大すると予測している。現時点では主に情報通信機器分野や、太陽光発電用パワーコンディショナ向けなどの新エネルギー分野、自動車・車載電装分野での需要が多いが、今後は医療分野にまで裾野を広げていきそうだ。

 その大きなきっかけとなりそうなプロジェクトが京都で動き出した。

 そのプロジェクトとは、ローム株式会社・京都府立医科大学・福島SiC応用技研株式会社の3者が共同で進めているもので、中性子線を使った次世代の放射線がん治療「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)用の医療機器の研究開発を行うというものだ。
 
 がん治療の発展を目的に、京都府立医科大学と福島SiC応用技研株式会社が、ローム株式会社のSiCを活用したBNCT治療機器(SiC-BNCT機器)の研究開発を実施する。また、研究開発の成果を踏まえ、最先端のがん治療を行えるよう、SiC-BNCT機器及び建物をロームが京都府に寄附することを、2016年11月22日に京都府と4者で基本合意している。

 SiCはシリコン(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料で、これまで半導体素材の主流として用いられてきたSiに比べ、絶縁破壊電界強度が10倍、バンドギャップが3倍という優れた特長があるだけでなく デバイス作製に必要なp型, n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、次世代パワーデバイス用材料として注目が高まっている。

 今回開発されるSiC-BNCT機器は、SiCを用いることで、従来のBNCTと比較し、大幅な機器の小型化と安定した中性子のコントロールが可能になることが大きな特長だ。BNCTは、ホウ素化合物の反応を利用してがん細胞を破壊するため、正常細胞に与える損傷をできる限り抑え、がん細胞のみ選択的に破壊することが期待できる次世代のがん治療だが、装置の大きさが課題だった。今回SiCによって激的な小型化を実現することで、中性子の発生源を患者の周囲10か所に設置でき、世界初となる中性子線の多門照射が可能となるため、治療対象を体表面7cmから25cm程度まで拡大することができる。また、がん細胞にのみ集積するホウ素薬剤の開発を併せて行うことで、さらに安全な治療を目指す。

 今回の研究では、特に肝胆膵(肝臓、胆のう/胆管、すい臓)を対象としたBNCT治療を目的に開発されている。仮にこれらのSiC-BNCT機器及び、建設整備が発表された「ローム記念BNCT研究センター(仮称)」が完成し、臨床応用が始まれば、すでに整備が進んでいる「永守記念最先端がん治療研究センター」での陽子線治療と合わせて、2つの世界トップレベルの最先端がん治療を医大同一敷地内で一体的に受けることが可能となる。京都府民がその恩恵を受けるだけでなく、日本のがん治療の大きな希望となるのは間違いなさそうだ。(編集担当:藤原伊織)