ビールのホップ成分がアルツハイマー病予防に効果 キリンが解明

2016年12月03日 20:49

 現在、高齢者の増加に伴い、日本では460万人、世界では2,430万人近くの方が認知症を患っているとされ、国内外で大きな社会課題となっている。一方、アルツハイマー病に代表される認知症には十分な治療方法が開発されておらず、日々の生活を通じた予防に注目が集まっている。
 
 これまでの疫学などの研究では、適度な量の酒類の摂取は認知症の防御因子として報告されている。特に赤ワインのポリフェノールは認知症への効果に関して多く研究報告がありますが、ビールの成分についてはあまり研究が進んでいまなかった。

 今回、キリンの健康技術研究所は、東京大学、学習院大学と共同で、ホップ由来のビール苦味成分であるイソα酸のアルツハイマー病予防に関する作用機序を世界で初めて解明した。

 ビールに華やかな香りと爽やかな苦味をもたらすホップは、ビールの原料として1,000年以上にわたって使用されており、同社ではこれまでホップ成分の肥満抑制効果、発がん抑制効果、骨密度低下抑制効果などを解明してきたという。今回、認知症の予防に関する研究開発において、ホップ由来のビール苦味成分であるイソα酸にアルツハイマー病の進行を抑制する作用があることを見出した。また、この作用は、脳内の老廃物を除去するミクログリアと呼ばれる細胞の活性化および、アルツハイマー病の原因物質とされるβアミロイドの蓄積や脳内の炎症抑制により生じることを明らかにした。

 方法は、アルツハイマー病モデルマウスにイソα酸を含む飼料を3カ月間混餌投与した。行動薬理試験で認知機能を評価した後、脳内に含まれるアルツハイマー病の原因物質の1つとされるβアミロイドの量やサイトカインなどの炎症物質、神経細胞のシナプス量を測定した。また、脳内の老廃物を除去するミクログリアの活性化状態を併せて評価した。

 その結果、イソα酸投与群では対照群と比較して脳内のβアミロイドの量が有意に低下した。また、脳内の炎症が緩和され、ミクログリアの老廃物除去活性および抗炎症活性が高進していた。さらに、神経細胞のシナプス量が有意に増加し、行動薬理評価の結果、認知機能が有意に改善したという。これらの結果により、イソα酸は脳内の老廃物を除去するミクログリアを活性化することでアルツハイマー病の進行を抑制する効果があることが示唆されたとしている。

 なお、この成分摂取のヒトの脳機能への作用は、内閣府の革新的研究開発推進プログラムImPACTでの実証試験で確認している。50-70代男女25名にイソα酸を4週間摂取してもらい、脳活動の変化をfMRI(ヒトおよび動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つ)にて測定する試験を行った。(編集担当:慶尾六郎)