ロームが世界初の次世代パワー半導体を量産

2012年04月02日 11:00

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ロームがパワー半導体素子を全てSiCで構成したフルSiCパワーモジュールの量産を、世界で初めて開始。同製品は一般的なSi製IGBTモジュールと比べてスイッチング損失を85%低減、体積も約50%の削減を実現している。

 あらゆる機器の低消費電力化の切り札として注目を集めているパワー半導体。中でも、現行材料のSi(シリコン)では実現できない大幅な効率向上や小型が見込めるSiC(シリコンカーバイト:炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代材料を用いた、次世代パワー半導体の実用化が切望されており、各社が開発に力を入れている。

 こういった背景の中、半導体メーカーのロームが、内蔵するパワー半導体素子を全てSiCで構成したフルSiCパワーモジュールの量産を、世界で初めて開始したと発表した。一般的なSi製IGBTモジュールと比べてスイッチング損失を85%低減、体積も約50%の削減を実現した新製品で、既に産業機器向けに出荷も開始しているという。

 SiCパワーモジュールは、Si製素子とSiC製素子とを併用したハイブリッド型を、既に数社が実用化・量産化を実現している。しかし、フルSiCパワーモジュールとするには信頼性の面で課題が多く、各社量産には至っていなかった。この点を、SiCエピ基盤からSiCディスクリートデバイス、SiCモジュールまでの一貫生産体制に強みを持つロームが克服。新製品はハイブリッド型のSiCパワーモジュールと比較しても、81%もの損失低減を実現している。

 電力損失は、送電や消費する際に発生する。日本国内の年間総発電量は1兆kWhとすると、1%の電力損失でも100億kWhのロスとなる。その為、従来のSi半導体を全てSiCに置き換えた場合の省エネ効果は、日本国内だけで原発4基分に相当するとの試算もでているという。それだけに、次世代パワー半導体への期待と需要は非常に大きなものとなっている。80%以上もの損失低減を実現した今回の新製品及びその量産化は、この期待と需要とに応えるものと言えるであろう。

 ロームは、2012年3月期見込みで35億円のSiC関連事業の売上を、2015年3月期には2012年比約4.5倍の160億円とする目標を掲げている。矢野経済研究所によると、新エネルギー向けのパワー半導体は、欧州を中心とする洋上風力発電や、米国と中国の太陽光発電システムでメガワットクラスの需要がのびる為、これらの分野を含んだ産業機器向けのパワー半導体の市場規模は、2017年には2011年の2倍程度まで成長すると予測されている。3月22日に実施されたローム の新製品発表会でも、太陽光発電や風力発電関連の機器を製造する企業にもサンプルを出荷しており、今年中には量産化されるのではないかとの見通しが発表されており、この予測を裏付けるものとなっている。となると、ロームの掲げた目標額も現実味を帯びた数字ではないだろうか。

 環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のマータイ氏。そのマータイ氏が2005年に来日した際に感銘を受けたことから、環境を守る世界共通言語として広めることを提唱した「もったいない」という言葉。電力損失を大幅に低減するロームの新製品及びその量産化は、まさに「もったいない」精神を具現化したものと言えるであろう。その言葉やそこに込められた精神と共に、日本の技術が世界へと広がることを期待したい。