インターネットの普及はこれから、我々の生活にどのような影響を及ぼすのだろうか。
巷を騒がせている「モノのインターネット」ことIoTや、住宅業界で着々と導入が進むHEMS(ホーム エネルギー マネジメント システム)など、10年前には想像もしなかった技術が次々と実用化され、世の中が急速に変わりつつある。
その大きな変化の一つが「印刷」だ。7世紀頃に中国で発明されたと伝わる木版印刷をはじまりに、1450年頃にはドイツの金細工師ヨハネス・グーテンベルクによって、羅針盤、火薬とともに、ルネッサンス期の三大発明と称される「活版印刷術」が発明され、印刷技術は情報を伝達したり、保存したり、拡散したりする最適なツールとして、人類の文化とその発展に欠かせないものとなった。しかし、近年になってPCやスマートフォンなどが個人レベルにまで普及したことで、書類などもわざわざプリントアウトしなくても画面上で確認できるようになり、そこに環境意識の高まりなども加わって「ペーパレス」という言葉が流行りだした。オフィスの報告書などもPCで作成したものをそのままメールで送信すれば、手間も時間も経費も掛からない。しかも、スマートフォンやタブレットを使えば、外出先でも瞬時にその内容を確認することができる。持ち歩けるデータ量も印刷物とは雲泥の差で、スマホ一台あれば、何万冊分もの雑誌や小説などを携帯することも可能だ。
ところが、ペーパレス文化は実際にはそれほど浸透していない。データで送っても、結局は受け取り側でプリントアウトしていることも珍しくなく、食品の衛生表示や商品の説明書なども、やはりオンラインではなく紙で求められることが多い。実際、日本製紙連合会の調べでは、2015年の日本の国民一人当たりの紙・板紙消費量は210.9㎏となっており、世界平均の56.6㎏と比較すると、日本はかなりの高水準であることが分かる。
そんな中、ヨーロッパ圏を中心にフレキソ印刷が注目されはじめている。フレキソ印刷とは、版の素材にゴムや合成樹脂を使った凸版印刷の一種だ。軽い圧力で印刷が可能なので、薄紙や厚紙、ダンボール、フィルムなど 幅広い素材に対応する事ができる。インキの種類も被刷体も選ばない印刷方式である上、水性インキで印刷ができるので、環境面からみても、これまでの印刷方式とは一線を画す。食品や医療・衛生などのパッケージをはじめ、包装資材の省資源化で需要が伸びているソフトパッケージ分野でも、このフレキソ印刷の導入が広がっており、世界規模で需要拡大が見込まれている。
日本でも、廣済堂や金羊社、渡辺護三堂などが以前からフレキソ印刷を行っているが、異業種からの参入も増え始めている。
自動車用の防振ゴムや産業用ホースなどの製造で知られる住友理工もその一社で、2009年からフレキソ印刷事業に参入した。同社が独自開発したフレキソ版は、溶剤を使わない水による手法(水現像)で環境負荷を低減できる上、溶剤・光熱費用などが削減でき、ランニングコストも抑えられる。さらに、同社は独自設計による製版機および製版工程で発生する現像液をリサイクルできる廃液レスシステムを開発、環境ソリューション事業への参入も果たしている。また、同社は今後の需要増を見込み、2016年末にフレキソ印刷が盛んな欧州、イタリア・トリノに戦略拠点を新設して、市場のニーズに迅速に応える体制を整えると発表した。
2016年12月には富士フイルムが新たに「インクジェット事業部」を設立するなど、ペーパレスどころか印刷分野は益々盛んな様子。フレキソ印刷のように環境問題と両立することができれば、印刷技術は人類の営みと切り離すことのできない文明として、これからも発展を続けていきそうだ。(編集担当:藤原伊織)