自動車業界のグローバルトレンド・機能安全を実現する世界初の日本の技術とは?

2017年01月14日 20:39

ローム車載チップ

ロームとラピスセミコンダクタが1月10日に発表した高精細液晶パネル向け機能安全導入車載チップセット。パネルの大型化・高精細化に対応できるだけでなく、液晶パネル向けデバイスのエラー検出を行うことで、液晶パネルのエラーによる事故を未然に防止する。

 2017年の日本経済を考える上で欠かせないのが自動車産業の動向だ。近年の自動車産業のグローバルトレンドといえば、やはり「環境対応」だろう。環境対応車と一口にいっても幅が広く、トヨタのプリウスやホンダのフリード、日産セレナなどに代表されるHV(ハイブリッド)カーをはじめ、EV(電気自動車)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド)、FCV(燃料電池)、バイオディーゼル、直噴ターボなど、技術は多岐にわたる。どれが本命に落ち着くのかは未だ確実ではないが、日系メーカーがこぞって力を入れているHVは残念ながら、日本国内ほどの人気は他国では得られてはいないようだ。単純に燃費性能だけをうたっても世界の市場で支持を獲得することは難しい。日系メーカーが市場を制するためには、もう一工夫、インパクトのある何かが必要になるだろう。

 少し停滞気味な環境対応技術に対し、今、凄い勢いで世界の自動車業界を席捲しているもう一つのグローバルトレンドが「自動運転」だ。グーグルやアップルの他、自動車関連以外のIT系ベンチャー企業が先行して計画を進めてきたが、トヨタも2014年1月に専門チームを結成して本腰を入れ始めた。日本勢の巻き返しにも大いに期待したいところだ。

 自動走行は現在、加速、操舵、制動のうちの複数をシステムが行う「レベル2」と呼ばれる段階まで実用化されている。最終的には、一般道、高速道にかかわらず、全ての走行作業を人工知能を使ったシステムに任せる完全な自動走行モード「レベル4」が目標だ。実験段階ではすでにドライバーの監視下で運転のほとんどをシステムが担う「レベル3」の自動走行機能実験も進んでおり、日本政府も2020年代前半の実用化を目指している。

 そして、この自動運転に欠かせない技術として開発が進んでいるのが「ADAS(先進運転支援システム)」だ。ADASはセンサーやカメラ、画像処理エンジンなど多様な技術を駆使してブレーキやハンドルの制御を行ったり、ドライバーに警告を発したりすることで安全性を高めるもので、安全規制が強化されつつある先進各国の市場での需要が急増している。日本でもこれからの超高齢化社会の中、高齢者ドライバーをアシストする機能としても、自動車には必要不可欠な機能となりそうだ。

 日系メーカーでは、富士重工業が運転支援システム「アイサイト」を主力車種に標準搭載するなど力を注いでいるが、東芝やルネサスエレクトロニクス、ロームなど、関連するセンサーメーカーや半導体メーカーも、ここ数年の間に続々とADASの新技術を開発、発表している。

 例えば、新年早々1月10日(火)にロームと同社のグループ会社であるラピスセミコンダクタが発表した、世界初の機能安全技術を組み込んだ、高精細液晶パネル向け車載チップセットは大変興味深い。

 ADASの導入に伴って、カーナビの画面のみならず、各種メータ類や電子ミラーなどの液晶パネル化が加速しているが、画面のフリーズや、何か不具合が起きた際には大きな事故につながる可能性も指摘されていた。また、液晶画面の用途が拡大するにつれ、パネルの大型化・高精細化に対する要望も高まっている。今回、ロームが開発したチップセットは、これらの欲求を満たすもので、現段階での最高レベルの視認性と安全性を両立させるものだ。

 同製品は、業界最高のHD/FHDクラス高精細液晶パネルを駆動するゲートドライバ、ソースドライバ、タイミングコントローラ(T-CON)、それらを最適に動作させるパワーマネジメントIC(PMIC)、ガンマ補正ICで構成されており、それらの各ICが情報を随時共有することで、世界で初めて、液晶パネル向けデバイスのエラー検出を行うことに成功。異常を即座に検知し、すぐにアイコンやエラー表示などで迅速に通知・警告を行うことで事故の未然防止に貢献するという。小さな不具合が大きな事故に繋がる可能性がある自動車にとって、事故を未然に予防する為の機能安全を果たす製品が実現できるこの日本の技術は、液晶メータや電子サイドミラーの需要が高い欧州でとくに大きな反響が見込めそうだ。

 自動車の大前提は安全であることだ。2016年12月に警察庁が発表した11月末時点での交通事故発生状況は3381件。前年同期と比較すると、発生件数、死者数及び負傷者数のいずれも減少しているそうだが、まだまだ多いことには変わりはない。自動運転やADAS技術の発展によって、自動運転「レベル4」が実現するといわれる2020年代後半には、交通事故0の社会を目指したいものだ。(編集担当:藤原伊織)