テロ等準備罪 政府は専門家が納得できる説明を

2017年02月04日 09:55

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一般市民には犯罪構成要件など分かりにくい案件だけに、専門家が不要、あるいは市民生活に影響が大きいと指摘する部分について、政府は国民に分かり易い表現で丁寧に説明していくこと必要がある

 今月1日、刑事法の専門家らが国連国際組織犯罪防止条約締結に国内の担保法が必要として「テロ等準備罪」の創設を目指している政府の対応について「犯罪対策にとって不要であるばかりでなく、市民生活の重大な制約をもたらします」と反対の声明を発表した。3日現在で学者ら専門家146人が反対すると明確にしている。

 一般市民には犯罪構成要件など分かりにくい案件だけに、専門家が不要、あるいは市民生活に影響が大きいと指摘する部分について、政府は国民に分かり易い表現で丁寧に説明していくこと必要がある。

 石破茂前国務大臣も3日のブログで「衆議院予算委員会も大きな混乱も無く進んでいるが『テロ等準備罪』については、法案提出に向けて政府・与党としてさらに周到な準備が必要なことを痛感している」と書いた。

 石破氏は検察官だった山下貴司議員の国会質疑に「充実したものでしたが、『重大犯罪を目的とする集団が、これを謀り合意する』ことの違法性につき、私としてもう少し深く学びたいと思いますし、これだけで十分足りるのかについても議論が必要」と時間をかけて十分に審議する必要のある法案になることを指摘した。

 そこで、専門家らの反対理由の中での指摘についてだが、「政府の現在検討している法案では(1)適用対象の『組織的犯罪集団』を4年以上の自由刑にあたる罪の実行を目的とする団体とするとともに、共謀罪の処罰に(2)具体的・現実的な『合意』と(3)『準備行為』の実行を要件とすることで、範囲を限定すると主張していることについてそれぞれに問題を提起した。

 まず(1)「目的」を客観的に認定しようとすれば、結局、集団で対象犯罪を行おうとしているか、また、これまで行ってきたかというところから導かざるをえなくなり、さしたる限定の意味がなく(2)概括的・黙示的・順次的な『合意』が排除されておらず、(3)「準備行為」の範囲も無限定だとしている。

 さらに「共謀罪」の新設は共謀の疑いを理由とする早期からの捜査を可能にする。およそ犯罪とは考えられない行為までが捜査の対象とされ、人が集まって話しているだけで容疑者とされてしまうかもしれない。『大分県警別府署違法盗撮事件』のような、警察による捜査権限の行使の現状を見ると、共謀罪の新設による捜査権限の前倒しは捜査の公正性に対するさらに強い懸念を生む。これまで基本的に許されないと解されてきた、犯罪の実行に着手する前の逮捕・勾留、捜索・差押えなどの強制捜査が可能になる。

 通信傍受(盗聴)の対象犯罪が大幅に拡大された現在、共謀罪が新設されれば、両者が相まって、電子メールも含めた市民の日常的な通信がたやすく傍受されかねない。将来的に、共謀罪の摘発の必要性を名目とする会話盗聴や身分秘匿捜査官の投入といった、歯止めのない捜査権限の拡大につながるおそれもある。実行前の準備行為を犯罪化することには、捜査法の観点からも極めて慎重でなければならない、とかなり国民生活に国家権力が介入しやすい状況が懸念されている。これらについて、政府はどう懸念を払拭する制度をつくるのか、説明すべきだろう。

 加えて、専門家らは、テロ等準備罪そのものの、創設根拠がないとしている。政府は条約締結に必要だとしているが、専門家らの反対意見の内容を見ると(1)テロ対策の国際的枠組みとして「爆弾テロ防止条約」「テロ資金供与防止条約」を始めとする5つの国連条約、および、その他8つの国際条約が採択されており、日本は2001年9月11日の同時多発テロ後に採択された条約への対応も含め、早期に国内立法を行い、これらすべてに締結している。このため『テロ対策立法はすでに完結している』と論理的にテロを根拠とした政府の説明の根拠がなくなっているとしている。

 そのうえで、国連国際組織犯罪防止条約締結のためには必要とする政府の根拠についても「本条約はテロ対策のために採択されたものではなく、『共謀罪』の基準も、テロとは全く関連づけられていない。本条約は国境を越える経済犯罪への対処を主眼とし、『組織的な犯罪集団』の定義においても『直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得る』目的を要件としている」とテロ等準備罪を創設する必要はないと指摘。

 また日本の法制度について「もともと予備罪や準備罪を極めて広く処罰してきた点に、他国とは異なる特徴がある。上記のテロ対策で一連の立法が実現したほか、従来から、刑法上の殺人予備罪・放火予備罪・内乱予備陰謀罪・凶器準備集合罪などのほか、爆発物取締罰則や破壊活動防止法などの特別法による予備罪・陰謀罪・教唆罪・せん動罪の処罰が広く法定されており、それらの数は70以上にも及ぶ」としている。政府は、これら、テロ等準備罪創設の必要性の疑問に対して明確に説明する責任がある。(編集担当:森高龍二)