AIが糖尿病患者を支援 患者行動「受診中断」を予測

2017年02月08日 08:47

 糖尿病の患者数は近年増加傾向にあり、2014年における糖尿病の患者数は316万人に達しているという(平成26年患者調査(厚生労働省))。糖尿病は進行すると合併症等を引き起こし、QOLの低下や医療費の増大につながるため、糖尿病患者には治療の継続が求められている。しかし、糖尿病外来患者の約1割が受診を中断し、合併症の発症後、病態が悪化してから受診を再開するというケースが多いことが問題となっている。

 従来研究では受診中断の因子を明らかにするため、属性や検査値から受診中断者の特徴に関する調査が行われている。年齢が低いことや男性の有職者といった特徴が報告されており、「糖尿病受診中断対策包括ガイド」として糖尿病治療に関わる医療従事者に周知・活用されている。しかし、受診中断には様々な要因が考えられるため、医師がここからさらに積極的に支援すべき患者を個人にまで絞り込み、支援することができずにいた。

 これを受け、日本電信電話(NTT)<9432>は、NTTグループのAI技術(corevo)の一つとして、東京大学大学院医学系研究科医療情報学分野、東京大学医学部附属病院企画情報運営部 大江和彦教授らの研究グループと共同で、約900名の糖尿病患者の電子カルテデータを利用して、糖尿病患者の症状が悪化する原因の一つである患者行動「受診中断」を予測するモデルを構築した。

 このモデルは、電子カルテデータやそこから生成された特徴量を入力して予約不履行(受診が途絶えるきっかけとなり得る予約外来の不受診)と受診中断リスク順位(将来の受診中断日までの日数の長さによる患者の順位付け)の2つを予測。これを2011年から2014年にかけて東京大学医学部附属病院に糖尿病の治療で通院している患者約900名の電子カルテデータを用いて評価したところ、優れた予測性能(予約不履行はAUC=0.958、F値=0.704、受診中断リスク順位は正解率=0.706)を確認した。この精度(F値)は、モデルが不受診となった予約のうちの7割を予測できていることを意味しているという。

 また、新たに予約登録日や予約日の曜日、予約登録日と予約日の間隔など、これまで医師が気づかなかった患者の予約行動に関わる項目が予測に影響を与えていることもわかった。予測結果をもとに、受診中断を避けるために積極的に支援すべき患者の絞りこみや、支援を開始すべき時期の見極め、支援の度合いの調整が可能となることから、医師の診療支援、ひいては患者の病態の維持・改善につながることが期待できるとしている。

 今後、NTTは医療・健康に関するエビデンスをベースに病態悪化の予兆を捉え、患者の予防・健康づくりに向けた行動変容を支援する研究開発に取り組み、患者のQOLの向上や医療費増加の抑制など社会課題の解決に貢献していきたいと考えているという。そして、生活習慣病予備群や健康な状態にある人への健康支援にも積極的に取り組み、様々なICTサービスと連携しながら、健康社会の実現を目指す方針だ。(編集担当:慶尾六郎)